多くの人の目に触れる人気コンテンツほど、様々な感想にさらされやすい。とくにSNSでは、それがたとえきわめて少数派のネガティブな意見だったとしても、大きな勢いを持っているかのように見えてしまうこともある。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、『サザエさん』『鬼滅の刃』の炎上騒ぎと、それを報じたネットニュースについて考察する。
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作品が作られた当時の時代性と現代の時代性の齟齬をどうすべきか、といった議論は常に起きる。2月21日に放送された『サザエさん』(フジテレビ系)ではカツオから女に生まれて良かったかを聞かれた母・フネが、「良妻賢母で愛嬌が良くって切り盛りうまくて、お料理が上手でおまけにお裁縫が上手。こんな母さん男にしたらもったいないよ」と回答。
これに対して「時代錯誤だ」などの意見が書き込まれた。この手の件については、何件かの批判的コメントを見つけたネットニュースの記者が「〇〇(作品名)の××という発言で賛否両論(炎上)」と報じた結果、その後実際にネットで大激論になることが多い。ただ、大多数の意見は「そんなことにいちいち目くじらを立てるな」というものではあるが、「賛否両論」「炎上」というキーワードとその作品が紐づけられた結果、数字の上では本当に炎上したことになってしまう。
人気アニメ『鬼滅の刃』の新シリーズ『遊郭編』をめぐっても同様の事態に。「遊郭」という言葉が子供向けアニメにはそぐわないと意見する人もいた。これを受け、東スポウェブが「鬼滅の刃新作めぐる議論で『炎上騒ぎ』がトレンド入り 森喜朗“失言”の影響も」と報じ、デイリースポーツが〈鬼滅 次回作「遊郭編」で炎上騒ぎ…論争「遊郭を子供に」「女性差別」「過剰反応」〉と報じた。
ところがその後J-CASTニュースが検証した結果、これらの記事が出る前は〈2月14日~19日の期間、「鬼滅」「遊郭」を含んだツイート約34万件を感情分析すると、ポジティブな反応が25.2%、中立が70.9%、ネガティブが3.8%だった〉とのことだ。よって「炎上騒ぎ」は起こっていないのに、2つのサイトが焚火にガソリンぶっかけて炎上させただけだ。まさにマッチポンプ型の記事制作方法である。そして、これらの記事、アクセスいいんだよ。腹立たしいことにさ。
さて、『サザエさん』だが、リテラシーの高い層はいちいち目くじらは立てず「時代劇」として捉えている。何しろ三世代同居など珍しいし、黒電話がある家などもはやない。波平とフネのように自宅で着物を着る父母などどこにいる? 番組開始の1969年にはすでに「核家族」という言葉は存在していたため、『サザエさん』の世界観は当時から「1950年代の古き良き日本」的な面はある。