開催そのものが危ぶまれる重圧を背負う橋本聖子・東京五輪組織委員会新会長と、「一丸となって取り組んで参ります」とエールを送った小池百合子・東京都知事。就任後の挨拶では親密ぶりをアピールした2人だが、笑顔の裏には長年の因縁がある。
東京五輪だけに限っても、2019年に森喜朗・五輪組織委元会長と橋本元五輪相が小池氏を無視してIOC(国際オリンピック委員会)と協議し、マラソン開催地を札幌へ変更した遺恨がある。
そして肝心の東京五輪開催については、やることが山積みだ。IOCや政府、東京都、組織委員会は東京五輪本番での「観客制限」や「海外からの観客」を入れるかなどの基本方針を春までにまとめる方針で、聖火リレーが始まる3月25日がタイムリミットと見られている。
IOCのバッハ会長は「無観客開催」の可能性に言及しており、感染防止のために全種目を無観客で開催することになれば、組織委員会はチケット収入約900億円を失う。
その赤字をIOC、政府、東京都がどう分担するかが大きな火種になる。その調整役が橋本氏だ。JOC(日本オリンピック委員会)関係者は「小池の攻勢」を予測する。
「小池知事としては、政府が五輪担当大臣を組織委員会会長に横滑りさせたのだから、当然、赤字補填についても政府が責任を負うべきだという考えでしょう。森喜朗さんならガツンと反論するだろうが、辞任した人がしゃしゃり出るわけにはいかない。今回の騒動の顛末からして橋本会長は手こずるのではないか」
2人の政治手法の違いを知る政治評論家の有馬晴海氏は、橋本氏が小池氏の猛攻をかわすと見ている。
「東京五輪まであと5か月ほどしかないので、橋本会長は協調姿勢で臨むはずです。小池知事の相手をするのは官邸の役割で、官邸は橋本会長の負担を減らすために対小池の“抑止力”として丸川珠代氏を五輪相にしたわけです。ただし、小池知事と丸川氏はどちらも“ケンカ上等”の似たタイプだけに、橋本会長が費用負担の問題を丸く収めようとしても、2人の対立がエスカレートして収拾がつかなくなることが懸念されます」
五輪憲章では、国家元首が開会宣言を行ない、〈開会式と閉会式では、IOC会長とOCOG(組織委員会)会長だけが短い式辞を述べることができる〉と定めている。
橋本氏は森氏にかわって開会式でスピーチをする栄誉を得た。だが、その開会式にこぎつけるまでには、コロナの感染収束だけではなく、女帝争いを制する必要がある。
※週刊ポスト2021年3月12日号