クレイジーケンバンドのボーカルや作曲家、作詞家として幅広いジャンルの音楽に携わる横山剣(60才)も、幼い頃から『みんなのうた』に慣れ親しんだ。
「当時から子供をなめることなく、子供向けでもしっかりしたクオリティーの楽曲を大人が一生懸命に作っていることを、幼いながらに感じていました。歌詞がテロップで出て、子供でも音楽を聴きながら歌詞がわかるのもよかった。作詞作曲するうえで原点となる番組でした」(横山)
『みんなのうた』を熱心に視聴した横山は、「大人になったらこの番組に楽曲を提供するんだ」というイメージを抱き続けた。その思いが現実になったのが、子供の頃に感じた将来への不安を振り返り、聴く者を励ます『スパークだ!』(2014年)という曲。歌詞に込めた思いを横山が語る。
「NHKの依頼を受けたときは『よし、キター!』って感じでした。ぼくの子供の頃は、宇宙飛行士やオリンピック選手やカーレーサーになりたいと思いながら、このまま大きくなって本当に“なりたい自分”になれるのかという悩みや葛藤があった。そうした子供心を振り返って、『スパークだ!』とエールを送るのがこの曲です」(横山)
子供の夢を後押しするこの曲は、あの頃、『みんなのうた』を見ていた自分に向けた歌でもあったという。
歌手の半崎美子(40才)は2017年に放送されたデビュー曲『お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~』で、愛情のこもった弁当を手紙代わりに、子供の成長をそっと見守る母の姿を描いた。
半崎は当時、デビューもしていない無名の新人。『みんなのうた』で楽曲が放送されたのは、歌手になるために生まれ育った北海道から縁もゆかりもない東京へ乗り込んで16年あまりが過ぎた頃。地道にショッピングモールでのライブを続けていたときのことだった。約1年もの歳月をかけて作られた彼女の曲は、同じ時期に放送されていたほかの曲が1曲2分20秒の放送時間のなか、フルバージョンの4分40秒が放送されたのだ。彼女が番組の影響力を思い知ったのは、放送後の反響からだ。
「ショッピングモールのミニライブのお客さんには、それまで音楽を聴かなかったかたが目立つようになりました。おじいちゃんやおばあちゃんの反響も大きく、自分の子供の頃を振り返って親世代を懐かしむかたが多かった。『70年生きていて、初めてCDを買いました』というかたもいらっしゃいました」(半崎)
「お弁当」という誰もが知るアイテムをめぐって、作る人と作ってもらう人の思いやりや感謝が交錯する。Mr.ChidrenのPVなどで知られる、日本を代表する映像作家の半崎信朗さんが制作した映像も相まり、この曲は広く人々の心に届いた。
半崎はこの番組で人生が変わったと語る。
「『みんなのうた』という普遍的で、誰もが知っている番組で放送されたことが、私の曲の浸透にもつながりました。そこをベースにみんながお弁当に自分自身を投影したからこそ、各地で共感していただいたのだと思います。この先私がこの世からいなくなってもこの曲が歌い継がれていくといいなと思っています」
渾身の一曲は今回のランキングでも50位内に入り、名実ともに「歌い継がれる歌」の1つとなった。
※女性セブン2021年3月11日号