同じ高校に通う息子を持つ3人の母たちの恋と人生を描いたマンガ『恋する母たち』(女性セブンで連載)が完結した。さまざまなことに不寛容になっている現代、それは『恋する母たち』で描いた、母の恋、不倫に対しても同様だ。ひとたび著名人の不倫がスクープされるや瞬く間にバッシングの嵐。『恋する母たち』(以下、恋母)連載中にも幾度も大きなニュースとなった。昨秋ドラマ化もされた本作の連載当初からの読者である林真理子さんが、作者の柴門ふみさんと語った。
柴門:人は誰かを裁く権利はないと思うんです。自分のことを振り返ってみたら、“そういうこともあったな”となにかしら思い当たるフシもあるわけで。いまの世の中は不倫に対しても不寛容で、ものすごくバッシングをしますよね。
まじめな主婦で不倫なんかに縁がなかったとしても、美容院で“今日の担当はいつもより若くてかわいい男の子でよかったわ”とか、レストランで“シェフがイケメン”なんて一瞬でもときめいたなら、それはもう気持ちとして不倫の入口だと思うんです。
結婚してから一度も夫以外の人をすてきだと感じなかった人だけが不倫を叩いていいとなったら、どれだけの人が残るか。イエス・キリストが、姦通罪を犯し石打ちの刑を受ける女性がいて、1回も罪を犯したことがない人だけ彼女に石を投げろと言ったらみんな黙った、みたいな話になるんじゃないかと。
林:現実は美容師の男性よりもっと際どいことをしているんじゃないかな、みんな。娘の家庭教師の先生が来る日にはいつもより念入りにお化粧をしていませんか、とか。
柴門:同窓会へ行くときに元彼との再会に期待していませんか、とか。
林:昔好きだった人とこっそり会ったことないですか、とか。みんなない? きっとあるよね。そういえば柴門さん、若い頃に青山で故郷の徳島の彼とデートしませんでした?
柴門:そうだった。まさに『恋母』世代の40代の頃ですよ。青山ベルコモンズで待ち合わせをして、近くのレストランでご飯を食べて、いまはなき「ラジオ」でお酒を飲んで。
林:ラジオという、東京中の有名人が集うような気取ったバーがあったんですよね。そこで彼氏が大きな声を出してオーナーに注意をされたと聞いたから、後日オーナーにあれは柴門さんの徳島時代の同級生だったそうですよと話したら、“ぼくも徳島出身だから、徳島のことばでしゃべられたらわかるよ。だから絶対にありえない”って、言われちゃって。
柴門:あの夜はきっと、2人して気取って東京のことばでしゃべっていたんですよ(笑い)。
林:あら、それすごくいい話じゃないですか。
柴門:でも、そこで飲みながら彼に“ねぇ、ぼくのどこが好きだったの?”と聞かれてなんかちょっとガッカリ。それっきりですよ。
林:で、どこが好きだったの?
柴門:どこだったかな(笑い)。