韓国の文在寅・大統領がいよいよ追い詰められてきた。残り任期1年あまりで支持率は40%を切って危険水域に突入。コロナ対策ではワクチン確保などで後手を踏み、批判にさらされることに苛立ったように「フェイクニュース取締法」を作ろうと言い出して、さらに国民の怒りを買っている。
『週刊ポスト』(2月26日発売号)では、そのフェイクニュース取締法や、野党から飛び出した「日韓海底トンネル計画」をめぐる混乱など、苦しい国家運営が続く韓国の混乱ぶりを詳しく報じている。そしてこの3月に、もうひとつ文政権が自ら炎上を招きそうなのが「風船ビラ禁止法」の施行だ。
ご存じのとおり、韓国では脱北者や脱北支援団体が、北朝鮮に向けて体制批判のビラを風船につけて飛ばす宣伝活動を続けてきた。金正恩・総書記による独裁体制がいかにひどいかをイラストなどを交えて暴露し、1ドル札やUSBメモリなど、北の住民が手に入れにくい“おまけ”をつけて飛ばすのが通例だ。脱北者のなかには、このビラを読んで、それまで知らされていなかった事実を知って脱北を決意したという人も少なくない。
ところが、経済も外交も失点続きの文政権は昨年、「南北融和」に最後の政権浮揚をかけるために、この風船ビラを禁止する法律を作ったのである。その経緯が実にまずかった。
2020年は、年初からビラ攻勢が激しく、北朝鮮は神経を尖らせていた。ビラ批判の急先鋒に立ったのが金正恩の実妹である金与正氏で、昨年6月には南北の通信線を遮断したうえで、「遠からず、無用な北南共同連絡事務所が跡形もなく崩れる悲惨な光景を見ることになるだろう」と予告し、実際にその3日後に爆破してしまった。宣伝のために公開された画像は大きく報じられたから、記憶にある読者も多いはずだ。
これに慌てふためいた文政権が北におもねるために慌てて作ったのがビラ禁止法(南北関係発展に関する改正法)だ。国会では当然、野党の激しい批判にさらされたが、昨年12月、数の論理で強引に成立させた。風船ビラを飛ばした者は、3年以下の懲役または3000万ウォン(約280万円)以下の罰金に処せられるという厳しい内容である。朝日新聞元ソウル特派員のジャーナリスト、前川惠司氏は同法を厳しく批判する。
「この法律は言論の自由や人権の面でも問題ですが、そもそも北に脅されて法律を作るという姿勢がまずい。韓国内では『金与正下命法』と呼ばれている。例えば、日本など国外からビラを飛ばしたとしても場合によっては罪に問われかねないというとんでもない法律です。文政権は、日本に対しては徴用工や慰安婦問題で人権問題を強く主張するが、北朝鮮国内の人権侵害は黙認する。現に国連の対北人権決議にも積極的に関わろうとしていません。これは韓国と国際社会の意識の違いが影響した問題なのです」