厚労省はかねてからPCR検査の拡充に消極的な姿勢を見せてきたが、一転、新たな検査方法を容認した。しかし、同時に新型コロナウイルス「陽性」の基準となる「Ct値」を下げていた。つまり、今後は陽性者が“自然”と減っていくことになるのだ──。
緊急事態宣言が大阪など6府県では前倒しで解除された一方、政府は、東京都ほか3県については新規感染者数の減少スピードが鈍化しており、緊急事態宣言の期限が2週間程度延長される見通しだ。。
とはいえ、少しずつながらもコロナ禍は収束に向かっており、日本のコロナパニックもぼんやりと終わりが見えそうになっている。
そんななか、政府が新型コロナの検査体制に関し、新たな“対策”を示していたことがわかった。1月22日、厚労省が「プール方式」によるPCR検査を、国費で賄う行政検査として認める通達を自治体に出したのだ。
プール方式とは原則、5人分の検体を混ぜて一度に検査し、陽性が出た場合にのみ個別に再検査を行うもの。すべての検体を単体で検査するよりも効率がよく、費用も安くすむといわれている。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんが説明する。
「単独のPCR検査よりも精度は多少落ちるものの、プール方式が有効であることはわかっています。感染爆発を抑えるためにはPCR検査を増やす必要があり、プール方式なら1日当たりの検査数を増やすことができます」
国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんもこう指摘する。
「過疎地や人口の多い東京など大都市では、検査技士などのマンパワーが圧倒的に不足します。プール方式はとても重要な方法だと考えられます」
中国・武漢市では昨年5月から行われていたことを考えると遅きに失した感はあるが、プール方式がスタートしたことは一歩前進だといえる。ところが、その厚労省の通達には、こっそりと「別の指針」がもぐり込んでいたのだ。
「検査の『陽性基準』を落とすことが地方自治体の衛生担当者に通達されたのです。これまでPCR検査ではCt値を『40~45』にしていましたが、新たにプール方式では『30~35』に設定したんです」(医療ジャーナリスト)
「Ct値」については後ほど詳しく解説するとして、インターパーク倉持呼吸器内科院長の倉持仁さんは厚労省のこの通達にこんな疑念を抱く。
「単独PCR検査が症状のある人や感染疑いのある人に実施されるのに対し、プール方式は主に、症状のない人や集団感染が懸念される高齢者施設などを対象に行われます。
つまり、プール方式はあくまでも無自覚な陽性者を見つけ出すために、スクリーニング検査(ふるい分け)として行われるわけです。プール方式で陽性が出た場合、当然、再度PCR検査を行うので『偽陽性』を恐れる必要はなく、むしろ無自覚な陽性者を見つけるために、陽性基準、つまり検査の感度を上げるべきなのです。スクリーニング検査において、陽性基準を低く設定するのは本末転倒です」
なぜ、厚労省はそんなちぐはぐな通達を出したのか──。