ネットで自虐をこめて発される常套句「ただしイケメンに限る」「かわいいから許す」「美人だから成り立つ話」は、人を容姿の美醜によって判断するルッキズムへの、少し歪んだ批判を含んでいるはずだった。ところが、これを本気で信じている人たち、なかでも仕事上の常識でノウハウだと信じている人たちが今も少なくない業界がある。ライターの森鷹久氏が、美容やファッション業界で働く女性たちが当惑しつつも続く「顔採用」についてレポートする。
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美人なのか、そうではないかで、その人物を評価する「ルッキズム」は、現在では人物評価をするうえで判断基準にすべきではないことだとされている。しかし、美容ライターの水野陽子さん(仮名・30代)は、まだまだルッキズムは根強くはびこっていると象徴するような出来事が、つい最近、起こったのだと沈んだ面持ちで訴える。
「男性美容師が自身のSNSで、女性客の顔のレベルでサービス内容や料金を変える、というような書き込みをして、大炎上したのです。お店は原宿の一等地にあり、評判も悪くなかったのですが、この件で、本人だけでなくお店の代表まで攻撃される事態に追い込まれました」(水野さん)
美容師は自身のSNS上で、施術の予約をするのなら顔写真を送って欲しいと前置きした上で「Sランクの美人なら全て無料、Aランクの女性なら~」と、容姿によって、サービス内容や料金が変わると説明していた。彼がどのような意図でやったのか、もしかすると冗談のつもりだったのかもしれないが、まったく笑えないどころか、不愉快極まりない。
そして、この書き込みを見たユーザーが、そのあまりの「おかしさ」をSNS上で指摘し、店の代表者が謝罪に追い込まれる事態となったのである。しかし……と水野さんが続ける。
「彼の書き込みは確かに糾弾されるべきです。ただ、美容業界では、そういった考え方が当たり前になっている部分はある。例えば、若くて綺麗な女性のお客さんが来店されたとき、店長に、あのお客さんは窓際ね、と全体のオペレーションの進行を無視して言われ、困惑したという女性美容師の話を聞きます。こんな美人も来ている美容室なんだと外から見えるようにすることが宣伝になるから、窓際に座らせろと勝手に判断して店長は言っているわけです。逆に若くなくて美人ではない人、またはお店の雰囲気にそぐわない人が来ても、美容室としては断る術はないですから、外から目につかない奥(の席に)に案内したりすることもあるといいます」(水野さん)