「長谷川式認知症スケール」を生み出した認知症の権威、長谷川和夫氏(92、認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長)が自身の認知症を公表したのは4年前のことだった。
家族として近くで見守り続けるのが長女・南高まりさん(58)だ。現在は有料老人ホームに入居しているという長谷川氏。“認知症になった認知症の権威”と、家族はどのような時間を過ごしているのか、2月19日発売のムック『週刊ポストGOLD 認知症と向き合う』にも寄稿した介護ジャーナリスト・末並俊司氏が聞いた。
アルツハイマーではなかった
「“(内容を)全部覚えているから”と『長谷川式認知症スケール』を父は受けませんでした。たしかに、開発者に検査するとしたら、医師も困ったでしょうね」
笑顔でそう振り返る長女・まりさんによれば、長谷川氏は2015年頃から体力的な衰えと比例するように予定が思い出せなくなったり、鍵のかけ忘れを繰り返すようになったという。
本人もまりさんら家族も、当初は初期のアルツハイマーだと思っていたという。この頃から治療薬のアリセプトを服用し始めた。
「高齢だし、物忘れが出てくるというのはみんなあるので、“(認知症のなかでもいちばん多い)アルツハイマーだろうな”と思っていました。ですが、2017年10月の講演会で認知症を公表し、新聞社に取材を申し込まれたことをきっかけに専門病院で検査を受けたところ、別のタイプの認知症だとわかったのです」
MRI検査を受け、改めて診断したところ「嗜銀顆粒性(しぎんかりゅうせい)認知症」と判明。認知症はタイプによって症状の傾向や治療、対処法が変わってくる。専門医が“当事者”となった際に思い違いが生じるほどに、各タイプの見分けが難しいことを物語っている。
判明したとき、長谷川氏はどのように受け止めたのだろうか。
「本人は落ち着いていて、落胆するわけでもなく“腑に落ちた”という感じだったと思います。自分が自分でなくなるというより、“もう一人の自分を見ているような感覚だ”と言っていました」