現在、ゴキブリ駆除剤に新しい旋風が起きている。その台風の目となっているのが、大日本除虫菊(KINCHO)の『ゴキブリムエンダー』だ。部屋の中で数プッシュするだけで燻煙剤と同じ効果がある。10年がかりで開発されたというのがこの商品だ。
進学、転勤、転居……新生活のスタートに伴って、この春に引っ越しを予定している人も多いだろう。そんな人はもちろん、誰もが「わが家で絶対にゴキブリと遭遇したくない」と思っていることだろう。ゴキブリは、完全に駆除することが難しい害虫だ。1匹見かけると100匹近い数が潜んでいるとはよく聞く話。
数多あるゴキブリ駆除剤の中で、部屋の中に煙を充満させて、どこにいるかわからない害虫を一網打尽にする燻煙剤は、最も歴史あるロングセラー商品だという。ただ、燻煙剤を使う場合は、事前に家電や火災警報器などにカバーをかけたり、ペットや植物は外に出しておいたりといった準備が必要で、使用後には換気や床の掃除などの後片付けも必要だった。また、使用中はその部屋の中に入れないことも大きなデメリットだった。
「日常生活を維持しながら、もっと簡単に部屋中のゴキブリをまるごと駆除できないか?」──KINCHOは、そうした点を満たす新商品を10年も前から構想していたという。当時、一定の空間にワンプッシュするなど、決まった分だけ薬剤を放出する定量噴射型の技術が開発されており、この技術は蚊用のワンプッシュ式エアゾール剤として広く応用されていた。同社では、この技術を対ゴキブリ用へと応用すべく、製品開発に着手した。
「一定の空間に決まった分だけ薬剤を放出させる」とひと口で言っても、害虫の種類によって生態は異なる。ゆえに、害虫ごとの生態を研究し、その生態に合わせた薬剤の挙動を工夫しながら開発を進めた。例えば、先行していた『蚊がいなくなるスプレー』では、これまでの蚊の生態研究から、室内に侵入した蚊は常に飛んでいるわけではなく、壁や天井に留まって、人を吸血するタイミングを狙っていることがわかっていたので、空間に放出された薬剤が壁や天井に付着しやすいような製剤を設計した。
一方、ゴキブリの場合は、床面や壁と家具などの隙間の、暗くて狭い場所に潜んでいる。そこで、空間に放出された薬剤を、ゴキブリの潜んでいる場所に効率よく届け、かつ、人への薬剤の吸入リスクを避けるため、空気中から速やかに薬剤を消失させるような工夫を行った。部屋の気流をシミュレーションしながら、人体には安全性の高いピレスロイド系の薬剤に着目し、粘り強く試験を繰り返したのだ。