福岡県篠栗町で起きた5歳男児餓死事件で、母親とそのママ友が逮捕された。事件の経過が少しずつ分かってきたが、母親はママ友に精神的にも経済的にも支配された状態だった。2002年に発覚した北九州監禁殺人事件、そして2012年に従犯者の別件逮捕から明るみに出た尼崎事件 ―― そんな異常な出来事など滅多に起きない、と思っている人は気づいていない。あなたの周囲にも、「プチ教祖」として身近な人間を支配している人がいる。俳人で著作家の日野百草氏が、埼玉県東部にいる「プチ教祖」なボスママと、住民たちの怖れについてレポートする。
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「ママさん2人を従えてるボス、彼女は教祖と呼ばれています。怖いですよ」
今年2月、筆者は埼玉県東部の各ホテルにしばらく転泊。何人かの情報提供者の中の一人から、当初の情報とは違う興味深い話を引き出した。ホテルのロビーで待ち合わせた彼は橋本寛弥さん(40代・仮名)。草加、越谷、春日部とフードデリバリーや独身男性の介護、テレワークに関しての取材が主だったが、その中でよもやま話として上がったのが、いわゆるママ友のボス、橋本さん言うところの「教祖」である。教団を率いているわけでもないし教祖は大げさなので、「プチ教祖」と言ったところか。しかし文中では他のママさんたちと区別するため、便宜上そのボスママは「教祖」とする。
「ボスママね、たいした人じゃないですよ、金持ちでもなんでもない、市営団地のシンママ(シングルマザー)です。態度でかいんで、むしろ保育園では嫌われてるほうです。でも絶対的な信者がいます。いますといっても2人ですが」
橋本さんの話は奥さんからの又聞きなので、あくまでよもやま話の類いでしかないし事件性もない。しかし筆者には興味があった。これまでも巷の「プチ教祖」は職場や学校、趣味の世界などに存在した。あなたのまわりのプチ教祖 ―― 筆者も某出版社で遭遇している。ここで断っておくが、多くの人が認めるような人気者が「プチ教祖」ではない。それは文字通りの人気者かリーダーシップや人望のある人、あるいは多少独善的な仕切り屋さんとか威張り屋さんの類いであり、当たり前だが洗脳や支配までには至らない。
「私も何度か園の行事で会ってるから知ってますけど、なんであんな人にって感じですよ。他に魅力的な人なんていくらでもいるのに」
世間的には支持されず、むしろ嫌われ者なのに特定の人物や少数者をターゲットに徹底支配し、それを奴隷のように操るプチ教祖。教祖と信者一人、あるいは数人で固まりさらに孤立を深める。ひれ伏す信者(表面上は友だち)を前に教祖だけはご満悦で、小さな搾取を繰り返す。スーパースターでもカリスマでもない一般人が、一般人をいとも簡単に支配する。
「そうなんです。これ特徴的だと思うんですけど、さっき言ったように何に優れているわけでもない人なんですよね、むしろ容姿は下、学歴だって仕事だってたいしたことない。ただ唯一言えることは自信家だってこと、自信の根拠はまったくないんですけどね」