阪神の矢野燿大監督が昨年1勝の藤浪晋太郎を開幕投手に指名した。球団では、1987年のマット・キーオなどの新入団選手を除けば、前年1勝以下の大役は1リーグ時代の1943年の三輪八郎以来78年ぶりとなる。プロ野球担当記者が話す。
「昨年の勝ち頭である西勇輝を2カード目に持っていけば中6日のローテーションで広島、巨人、広島、巨人にぶつけられる。開幕戦のヤクルトは、藤浪が昨季唯一の勝利を挙げた球団で対戦防御率も1.48だった。逆に藤浪を2カード目に回せば、広島や巨人と当たることになってしまう。昨季、藤浪は巨人に7.07、広島には7.77と相性が悪かった。1カード目にぶつけて中6日で回せば、1か月は両チームと当たらない。それならば、藤浪の潜在能力を引き出す意味も込めて、2、3戦目ではなく開幕戦を任せようと考えたかもしれません」(以下同)
12球団の開幕投手はDeNAを除いて、既に各監督が公表している。セ・リーグは2012年から予告先発を全試合で導入しているため、DeNAも前日までには開幕投手が判明する。
「この制度がなければ、藤浪の開幕投手は大サプライズになって大いに盛り上がったでしょう。予告先発はファンサービスの一環で導入されました。確かにセ・リーグの観客動員数は2013年以降、コロナ禍の昨年を除けば右肩上がりになりました。ただ、予告先発と相関関係があるかはわかりません。『この先発投手だから観に行こう』というファンがいるのも間違いありませんが、先発を隠すことで生まれるドラマは消えてしまっています」
2004年、就任1年目の中日・落合博満監督は過去3年間登板のなかった川崎憲次郎を開幕投手に指名。チームメイトさえ、当日に知るほどの大サプライズに球場は騒然とした。川崎は2回途中5失点でノックアウトされたが、チームは逆転勝ちし、中日はこの年5年ぶりの優勝を飾った。
「この起用法で、他球団は落合監督が何をやってくるかわからないという警戒心を抱いた。もし予告先発だったら、あれほどのインパクトは与えられなかったし、他球団も必要以上に落合采配を恐れなかったでしょう。予告先発にすれば、1人の投手に絞ってミーティングができるし、他の開幕投手候補がダミーで演技をする必要もない。チームの負担は減ります。12球団がそのメリットを優先しているのでしょうけど、推理する野球の楽しみを奪っている面もある。奇しくも、落合監督が退任した翌年からセ・リーグは予告先発を導入しました」