関取在位117場所という歴代1位タイの記録を残し、2019年に引退した元関脇・安美錦(現・安治川親方)。好角家でもある人気モデルの市川紗椰にとって、安美錦は「相撲を見始めた頃に面白さや奥深さを教えてくれた人」という思い入れが深い力士である。そんな市川が、多様な取り口で土俵を沸かせた安治川親方に、3月場所の見どころを聞いた。
市川:3月場所の注目力士を教えてください。
安治川:先場所優勝した大栄翔ですね。押し相撲で安定しないという指摘もあるが力はついている。追うのはウチ(伊勢ヶ濱部屋)の照ノ富士です。
市川:大栄翔関とは現役時代に対戦していますよね。
安治川:相撲が大きくなりましたね。突っ張りで相手を弾く力がついた。実は彼をずっと注目力士に挙げていたんですが、先場所は大関陣に気を遣って名前を出さなかった。そうしたら平幕優勝。解説者として評価が上がっていたのに(苦笑)。
市川:アハハ。一方の照ノ富士関。NHKの番組で共演した際、「序二段まで落ちた時も部屋の皆が“大関”と呼んで気を遣ってくれて助かった」と仰っていました。伊勢ヶ濱部屋は本当に雰囲気が良いんですね。
安治川:僕は「おい、序二段」って呼んでましたよ。
市川:ええっ(笑い)。でもそれが冗談だとわかる部屋の雰囲気がね。
安治川:師匠が辞めさせなかったのが大きいですね。僕が同じ立場だったら可哀想で辞めさせていたかも。結構思いつめていましたから。今でも廻しさえ取れれば大関にも負けない力がある。稽古量も豊富だし問題はない。本人は横綱を倒して、大関に上がるつもりでしょう。
市川:同じ伊勢ヶ濱部屋では翠富士関にも注目しています。肩すかしが右からも左からも決められるのがワクワクします。
安治川:あまり相撲は巧くないですけどね(笑い)。
市川:柔軟性があるとか?
安治川:というよりタイミングを取るのが巧いですね。思い切りが良く瞬発力があり、動きと同時に技を仕掛けられるので、相手としては一瞬でいなくなったような感覚になるんでしょう。それに稽古で押す力がついて相手をしっかり押せている。押して「オッ」と思わせることが肩すかしに行く隙を生んでいるのだと思います。