3月11日で東日本大震災から10年が経過し、地震への備えの大切さが再び注目されている。日本列島付近では、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界線である南海トラフを震源として、マグニチュード(以下、M)8~9クラスの「南海トラフ地震」が30年以内に発生する確率は「70~80%」とされている。政府の想定によれば、最悪の場合、死者32万人超。経済被害は220兆円にものぼるという。
空前の被害を及ぼす南海トラフ地震。だが、惨劇はそれだけでは終わらない。立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授・高橋学さんが指摘する。
「フィリピン海プレートの境界線には、『南海トラフ』のほかに『相模トラフ』と呼ばれる震源域もあり、南海トラフ地震が相模トラフ地震を誘発する可能性があるんです。これらが連動するのが『スーパー南海地震』で、被害は関東から沖縄まで広範囲におよび推定死者数は約50万人規模になると推測されます」
地震の連鎖は、過去、実際に発生している。1854年、M8.4の安政東海地震が発生すると、その32時間後に紀伊半島沖を震源とするM8.4の安政南海地震が起こり、甚大な被害を出したことが記録に残されている。もし、スーパー南海大地震が発生したらどうなるか? シミュレーションをした。
南海トラフ地震が発生した数時間後の東京・汐留。再びスマホのアラームがけたたましく鳴り響いた。その数秒後、再び激しい横揺れに襲われた。余震かと思われたが、そうではない。南海トラフ地震と連動して、相模トラフ地震が発生したのだ。
あたりを見回すと、高層ビル群が大きく揺れている。上層部の振り幅は、ゆうに5mを超えている。上層階の室内ではコピー機や冷蔵庫などが左右に移動し、勢いがついて窓ガラスを突き破り、次々に外に放り出されている。人間も同じだ。割れた窓から、多くの人が投げ出されている。
相模トラフで発生した津波は、神奈川県の江ノ島や鎌倉など相模湾の沿岸を襲い、東京湾にも侵入する。横浜や川崎、千葉の海沿いにある石油タンクは激しい炎を上げて燃え上がり、その火が“津波火災”となって街を地獄絵図に変えていく。津波火災は沿岸部をのみ込むだけでなく、東京湾にそそぐ河川を逆流し始めた。
「東京の下町エリアは、隅田川が津波で氾濫して水没する危険性があります。山の手でも目黒川や善福寺川流域など狭い谷で大きな被害が出ます」(前出・高橋さん)