音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、春風亭昇太の独演会「オレスタイル」についてお届けする。
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春風亭昇太が自分で企画する独演会「オレスタイル」。去年は3月23・24日に本多劇場で開かれる予定だったが、コロナ禍によるイベント自粛要請で中止。今年は1月29~31日に客席数を定員の半分以下に抑えて本多劇場で開催された。
いつもは普段着の昇太によるオープニングトークで始まりゲストの高座を挟んで昇太の落語となるが、今回は楽屋の“密”を避けて前座もゲストもお囃子もなし。休憩時間を告げる影アナも終演後の規制退場の誘導もすべて昇太が務めた。
まずは前座代わりに『子ほめ』。これが実に面白い。基本の型なのに昇太が生き生きと演じることで新鮮に聴ける。落語は結局“演者自身の魅力”が肝だと証明する高座だ。
改めて真打として登場した昇太が演じたのは、過去に数回しか高座に掛けたことがないという年末年始限定ネタの『御慶』。年を越せない貧乏所帯の亭主が夢のお告げを信じて富くじを買い、千両当ててめでたい正月を迎えて大騒ぎ……という噺で、くじを買うまでのドタバタも楽しく、千両当てて浮かれまくる亭主の可笑しさは圧巻。“千両当たる”というドラマをひたすらバカバカしい滑稽噺として表現する「これぞ昇太!」という一席だ。
三席目はネタおろしの『胴斬り』。辻斬りに遭って上半身と下半身とに分かれたまま生きる男の噺だが、昇太は「下半身(足)が犬みたいな振る舞いをして可愛い」という独創的な演出を持ち込み、聴き応え満点の爆笑編にした。この着想は、まさに天才! “懐いてくる足”を抱き上げて可愛がる仕草の楽しさは昇太ならでは。落語でしか表現できない途方もないシチュエーションを見事に利用した昇太版『胴斬り』は今回一番の収穫と言っていいだろう。