国内

「役に立たなくても、やりたいやり方でやる」祈り続ける被災者の思い

「この看板は、津波に負けたくない、地域の人を励ましたいという思いから、流されてしまった私の家があった場所に作りました」(黒澤さん)

「この看板は、津波に負けたくない、地域の人を励ましたいという思いから、流されてしまった私の家があった場所に作りました」(黒澤さん)

〈がんばろう! 石巻〉。そう記された看板の近くにまつられる小さな炎は、消えることなく燃え続ける──。

 東日本大震災で宮城県石巻市にあった自宅を失った黒澤健一さん(50才)は、震災1年後の2012年3月12日から、一日も欠かさずこの地を訪れ、ランプに灯油を補給している。

「炎の種火は北上や女川、石巻で流された家の木片で、1日2回の灯油補給を欠かしません。こんな看板、最初は誰も求めていませんでしたよ。迷いの中で作って、でも、励ましてくれる近所の人や手を合わせる人もいて、この炎や看板には『力があるんだな』と思いました」(黒澤さん)

 絶やさず燃え続ける炎には、震災の記憶を受け継ぎ、次の世代に犠牲者を出さないという願いが込められている。

 石巻の街が新しく生まれ変わっても、黒澤さんの毎日は変わらない。

「10年経って何が変わったかと聞かれても、何も変わってないです。すっかり変わった街の中で、どう生きていくか、つねに現在進行形で考えています。未来へ向かっての1コマがいまというだけです」(黒澤さん)

 宮城県仙台市宮城野区蒲生地区に住んでいた笹谷由夫さん(74才)も、津波で自宅を流された。

 震災当日、20才だった長男の舟一さんと、1つ下の次男の要司さんの帰宅を車の中で一睡もせず待ち続けたが、子供たちが帰ってくることはなかった。

「『何とか生きていてくれ』と毎日毎日それだけを祈っていましたが、別々の遺体安置所で2人とも見つかりました。守ってやれなかったことが悔しくて悔しくて、『おれが殺してしまった』と自責の念に苛まれ、毎日毎日苦しみました」(笹谷さん)

 自宅があった場所は危険地域となり、家を建て直せない。笹谷さんはその場に、子供たちの名から「舟要観音」と名づけた観音像を建てて、わが子の生きていた証とすべく、毎日祈りを捧げている。

 そんな笹谷さんが思わずこぼした本音が、被災地とそれ以外の人々とのギャップだ。

「蒲生では1150世帯のほとんどが流され、300人以上が亡くなりました。被災地は震災10年という節目になれば注目されますが、そのとき以外は蔑ろにされている気がします。私は毎日、観音様に祈りを捧げていますが、だからなんだと言われれば、これがなんの役にも立たないことはわかっています。ただ、私は私のやり方で、やりたいことをやるしかないというだけです」(笹谷さん)

関連記事

トピックス

田中圭と15歳年下の永野芽郁が“手つなぎ&お泊まり”報道がSNSで大きな話題に
《不倫報道・2人の距離感》永野芽郁、田中圭は「寝癖がヒドい」…語っていた意味深長な“毎朝のやりとり” 初共演時の親密さに再び注目集まる
NEWSポストセブン
春の園遊会に参加された天皇皇后両陛下(2025年4月、東京・港区。撮影/JMPA)
《春の園遊会ファッション》皇后雅子さま、選択率高めのイエロー系の着物をワントーンで着こなし落ち着いた雰囲気に 
NEWSポストセブン
現在はアメリカで生活する元皇族の小室眞子さん(時事通信フォト)
《ゆったりすぎコートで話題》小室眞子さんに「マタニティコーデ?」との声 アメリカでの出産事情と“かかるお金”、そして“産後ケア”は…
NEWSポストセブン
週刊ポストに初登場した古畑奈和
【インタビュー】朝ドラ女優・古畑奈和が魅せた“大人すぎるグラビア”の舞台裏「きゅうりは生でいっちゃいます」
NEWSポストセブン
逮捕された元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告(過去の公式サイトより)
「同僚に薬物混入」で逮捕・起訴された琉球放送の元女性アナウンサー、公式ブログで綴っていた“ポエム”の内容
週刊ポスト
まさに土俵際(写真/JMPA)
「退職報道」の裏で元・白鵬を悩ませる資金繰り難 タニマチは離れ、日本橋の一等地150坪も塩漬け状態で「固定資産税と金利を払い続けることに」
週刊ポスト
2022年、公安部時代の増田美希子氏。(共同)
「警察庁で目を惹く華やかな “えんじ色ワンピ”で執務」増田美希子警視長(47)の知人らが証言する“本当の評判”と“高校時代ハイスペの萌芽”《福井県警本部長に内定》
NEWSポストセブン
ショーンK氏
《信頼関係があったメディアにも全部手のひらを返されて》ショーンKとの一問一答「もっとメディアに出たいと思ったことは一度もない」「僕はサンドバック状態ですから」
NEWSポストセブン
悠仁さまが大学内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿されている事態に(撮影/JMPA)
筑波大学に進学された悠仁さま、構内で撮影された写真や動画が“中国版インスタ”に多数投稿「皇室制度の根幹を揺るがす事態に発展しかねない」の指摘も
女性セブン
奈良公園と観光客が戯れる様子を投稿したショート動画が物議に(TikTokより、現在は削除ずみ)
《シカに目がいかない》奈良公園で女性観光客がしゃがむ姿などをアップ…投稿内容に物議「露出系とは違う」「無断公開では」
NEWSポストセブン
長女が誕生した大谷と真美子さん(アフロ)
《大谷翔平に長女が誕生》真美子さん「出産目前」に1人で訪れた場所 「ゆったり服」で大谷の白ポルシェに乗って
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』でW主演を務める中井貴一と小泉今日子
なぜ11年ぶり続編『続・続・最後から二番目の恋』は好発進できたのか 小泉今日子と中井貴一、月9ドラマ30年ぶりW主演の“因縁と信頼” 
NEWSポストセブン