体当たり企画などを得意とする『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子が、世の中や身の回りのさまざまなトピックに、素直な意見を投げかける。今回は、92才になる母親のお話です。
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先週から熱が38℃超えの日が続いていた母親(92才)が、心不全を起こして再び入院するという。
「いま、救急車に乗って、受け入れてくれる病院を探しているからとりあえず来て!」
スマホから聞こえてくる弟の妻の声は差し迫っていた。
母親は4年前に父親(享年80)が病死してから、茨城の実家でひとり暮らしをしていた。家の前の畑には同世代のご近所がそれぞれ作物を作っていて、作業が終われば手料理を持ち寄って酒盛り。どうやらスケベ話をしながら盛り上がったりして、娘の私から見ても理想の老後に見えた。
それが一昨年、90を超えた頃から、ご近所の1人が施設に入り、1人が亡くなり、静かに櫛の歯が抜けていった。
「まあ、トシがトシだから仕方あんめな」と言っていた母親も、週に2日ヘルパーを頼み、デイケアセンターでお風呂に入れてもらうようになり、トイレの失敗が続いた去年の暮れ、介護老人保健施設に入居した。
が、コロナ禍でお見舞いはご法度。月に1度だけ、しかもリモートに限られた。
その母親が、おかしくなったという。今度こそは覚悟か。3か月会えないまま、永遠のお別れか。だけど、会っていないと、悲しもうにも悲しめない。要はピンとこないのよ。
「ちょっと姉ちゃんはここで待ってて」
やっとの思いで病院に着くと、11才年下の弟は私に、「車の中で待機しろ」と言う。近場のほかの病院のように「東京都在住の人間は立ち入り禁止」にはなっていないけど、それでも私が行くと手続きが面倒になるのだそう。もし、今日が母親と最後の別れになるのだとしたら、いや、そうか……もう会えないのか。