結核ワクチンのBCGは、これまでに世界で40億人に接種されている。新型コロナウイルスパンデミックに際し、BCG接種国は未接種国に比べ、感染率や死亡率が低いことが注目され、BCGには自然免疫を活性化させる作用があるのでは、と考えられている。そこでBCGに新型コロナの遺伝子を組込んだ、生ワクチン作製の研究が始まり、2~3年後の承認を目指している。
BCGはフランスのパストゥール研究所で作られたウシ型結核菌を弱毒化した生ワクチンだ。以後、特性の異なる複数の菌株が作られたが、現在は日本株、ロシア株、デンマーク株の3種が広く使われ、その中でも日本株は生菌数が多く、免疫誘導作用も強い。
昨年、新型コロナ感染が世界中に広がった際、BCG接種国は非接種国に比べて感染率や死亡率が2桁も少ないことに注目が集まった。そこでオランダのラドバウド大学メディカルセンター内科のグループがBCGワクチンの他の感染症に対する防御効果について1年に亘り追跡調査。
その結果、65歳以上の高齢者をBCG接種群と、しない群に分けたところ、接種群は新型コロナ以外の肺炎の罹患率が非接種群に比べて有意に低いとの報告がされた。
新潟大学医歯学総合研究科細菌学教室の松本壮吉教授に話を聞く。
「BCGは結核菌を弱毒化した生ワクチンです。一般的に死んだ病原体で作るワクチンより、生ワクチンのほうが効果は高いとされ、理由はアジュバント活性が高いからです。実は、体内に抗原を入れただけではワクチンの効果を得られません。抗原の周囲に免疫系を活性化させるものが必要で、それがアジュバントです。BCGのアジュバント活性は“最大”といわれ、自然免疫をより活性化させるので、結核以外の感染症に対しても有効では、と考えられています」
現在、世界で接種が進む新型コロナのワクチンはmRNAワクチンである。mRNA自体がアジュバントとなっているが単独だとアジュバント活性は低い。一方、生ワクチンはウイルスや菌が本来持っている複数のアジュバントと一緒に作用するので、ワクチン効果が高いのだ。