総理大臣の統治能力は、官僚をいかに使いこなすことができるかにかかっている。官房長官時代に官僚人事を掌握していた菅義偉・首相は、政権運営に強い自信を持っていた。しかし、その首相がいまや官邸で孤立を深めている。
「総理はもともと猜疑心が強いほうだが、長男の正剛さんの接待問題が発覚してから疑心暗鬼になっている。杉田和博・官房副長官や滝沢裕昭・内閣情報官を呼んで『誰がリークしたか調べろ』『まだわからないのか』とピリピリしているから官邸では誰も総理に近づきたくない雰囲気がある」(官邸の中堅官僚)
菅首相の秘密主義がそれに拍車を掛けている。
「総理は正剛さんとの関係がうまくいっていないようで、本音は“息子が余計なことをしやがって”と思っているのではないか。それでも秘書官にも家族のことには立ち入らせない。官邸幹部は『息子さんに直接連絡を取らせてもらえないから事情がわからずに対応策が立てにくい』とこぼしている」(同前)
総務省の接待問題では首相側近といわれた谷脇康彦・前総務審議官が辞職に追い込まれ、霞が関では「総理の息子のスケープゴートにされた」と囁かれている。
菅首相の官僚掌握力は「従う者は出世させる」というエコヒイキ人事に依っていただけに、掌握力が弱まると役人は面従腹背を決め込み、サボタージュする悪循環に陥る。
国民にとって深刻なのは、菅首相の求心力低下がコロナ対応の不手際に直結していることだ。
「これはどういうことなんだ!」
菅首相が周囲に厚労省への苛立ちをぶつけたのは、1都3県の緊急事態宣言延長の方針を明らかにした3月5日の参院予算委員会の直後だった。
「総理は緊急事態宣言後に日本医師会や日本看護協会、日本病院会など医療関係6団体のトップと会談し、医療崩壊防止のために医療機関への支援増額を約束すると、厚労省に具体的な医療崩壊防止策を持ってくるように指示した。厚労省は病床確保やワクチン接種体制を進めるために医療関係団体の協議会を設置すると報告した」(新型コロナ対策本部関係者)