新型コロナウイルスショックがアーティストを直撃している。感染症対策の理由から、動員数の制限があるなど、以前のようなライブ活動を行うことができないなか、ビジネス面はもちろん、アーティストのマインド面にも影響は及んだ。2020年、デビュー35周年というアニバーサリーイヤーに新型コロナの感染拡大が重なり、苦悩した、ヘヴィメタルバンドANTHEMのリーダー・柴田直人氏に心境を聞いた。
アニバーサリーイヤーに新型コロナショック直撃という悪夢
ANTHEMは1985年にデビューし、解散・再結成、幾たびのメンバーチェンジなどを乗り越えつつ、活動を継続してきた。特にここ数年の活躍は、攻撃的そのものだった。2019年には数々の名盤を手掛けてきたイェンス・ボグレンをミキサーに迎え、全英語詞再録音ベスト・アルバム『NUCLEUS』を全世界同時発売。ヨーロッパのフェスへの出演、数度にわたる国内ツアーなど精力的に活動した。ライブのチケットもSOLD OUTの連続だった。
デビュー35周年となる2020年は、アルバムの全曲再現ライブ、ヨーロッパで開催されるフェスティバルへの出演、歴代メンバーを迎えた国内ツアーなどが予定されていた。記念ツアー最終日の東京公演には、レインボー、アルカトラスなどで活躍した大御所ボーカリスト、グラハム・ボネットをスペシャルゲストとして招く予定だった。
しかし、最高のものになるはずだった年は、最悪の年になってしまった。
「正直、ミュージシャン生活で初めてと言っていい、やる気がまったく起こらない状態になってしまいました。ライブができなかったのは、言ってみれば35年のうちの1年だけ。でもその1年は僕にとってはもう、筆舌に尽くしがたい苦悩の日々でした」(柴田直人氏、以下「」内同)
日本のヘヴィメタル界の重鎮からの一言は、重かった。昨年、行った主な活動は感染拡大前の2月に行ったライブ1本と、過去のライブ映像の配信くらいだった。ファンもメンバーも待ち望んでいたアニバーサリーツアーは2021年に延期となった。アコースティックライブの実施を模索したが、これも中止になった。
何もかもが止まってしまった。柴田氏は2020年をこう振り返る。
「去年の僕は、名前も身体も、僕ではあったけど僕ではなかった。ファンの方たちに向けて毎日発信しているSNSで、内心の苦悩については書きませんでした。嘘は絶対に書かない主義なのだけれど、他愛ないことでも喜んでもらえた方が嬉しいから。でも、僕の言葉遣いや表現で、心の奥底にあるものを感じてくれている方もいたかもしれません」