芸能

十代目金原亭馬生 志ん生と志ん朝の影で醸造したいぶし銀の芸

父と弟に当たるスポットの影でじっくりと芸を醸造した馬生

父と弟に当たるスポットの影でじっくりと芸を醸造した馬生

 放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、学生時代によく聴いた、父は五代目古今亭志ん生、10歳下の弟が古今亭志ん朝という十代目金原亭馬生にまつわる思い出をつづる。

 * * *
 いま毎日2席ずつ十代目金原亭馬生を聴いている。渾身の50席が収められたCDブック『十代目金原亭馬生 東横落語会』を小学館サマサマから頂いたのだ。2席ずつ聴いても25日はかかる。なんだか自分がオツな馬生になった様な気になってくる。渋すぎるいぶし銀のような芸、淡淡とした枯れた味、水墨画のような噺。どれを聴いてもなつかしく江戸の味と匂いがする。

 学生時代、私はよく馬生を聴いたが、新宿の末広亭なぞ昼席の2時頃、ホワーンと出てくる。一番前の席に陣取った私の鼻先にス~ッとほのかな酒の香り。朝から少しずつ呑み、肴には一切手をつけなかったときく。ある意味、老成してみせる名人だったのかもしれない。絶対明治生まれだろうなと思っていたが、昭和3年生まれ、昭和57年には54歳という若さで亡くなっている。

“ミスター落語”とも言うべき五代目古今亭志ん生の長男として生まれ、10歳下にはサラブレッド、華やかな次男・古今亭志ん朝がいる。若き日は父はまだ売れず、御存じの“なめくじ長屋”での“びんぼう自慢”暮し。さっそうと出てきた弟・志ん朝にはそんな苦労がない。まさに飢えと寒さ、貧乏という落語そのものを体験してきた馬生。父と弟に当たるスポットの影で、じっくりと芸を醸造したのだろう。

 この50席の音源というのは昭和31年から30年間、渋谷の東横百貨店にあった東横ホールで開催されていた会のもの。よくぞ出してくれたものだ。渋谷生まれの私としては渋谷で古典落語の会というのも珍しく、学生時代はよく通った。志ん生・文楽の時代も終り、圓生・小さんの時代に少し若手の馬生がレギュラー入りし、大看板達に見劣りのない至芸を披露した。「目黒のさんま」が良くて「湯屋番」「ざる屋」がいい。このCDブックには珍しい、私も初めて聴く「夢の瀬川」という、本当に俳句のように言葉を抽出し「間」できかせる噺も収録されている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ロシアのプーチン大統領と面会した安倍昭恵夫人(時事通信/EPA=時事)
プーチンと面会で話題の安倍昭恵夫人 トー横キッズから「小池百合子」に間違われていた!
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン