コロナ対策では優柔不断な菅義偉首相だが、こと総務省の接待問題では人が変わったように素早い“火消し”に動いた。
「接待を受けた側」の谷脇康彦・総務審議官ら官僚を国家公務員倫理規程違反で早々に処分し、「接待した側」の首相の長男・正剛氏が勤務する東北新社の一部の放送事業認定を取り消す方針を決めた。
しかし、処分だけが先行し、肝心な真相解明は何も進んでいない。国会に参考人招致された東北新社とNTTの社長も、高額接待の意図を明らかにしようとはしなかった。
なぜ、東北新社やNTTは総務官僚や歴代総務大臣らと頻繁に会食する必要があったのか。菅政権が幕引きを急ぐのは、接待問題の本当の構図を知られたくないからだ。
総務省は放送と通信の巨大な「電波利権」を牛耳る官庁である。
内閣官房参与にして、本誌・週刊ポストでNHKの「Eテレ売却」を提言した高橋洋一・嘉悦大学教授が利権の実態を語る。
「放送や通信に利用される電波(周波数帯)は大きなビジネスを生むため、先進国ではどの事業者に電波の利用権を与えるかを入札で決めるが、日本は総務省が割り当てる。
だから新たに電波が欲しい事業者や、あるいはすでに電波を持っていて既得権を守りたい事業者は総務省の役人や大臣を接待するわけです。公平な入札ではなく、役人の裁量で電波の割り当てを決めるという利権構造にこそ問題の本質がある」
電波行政に詳しい山田肇・東洋大学名誉教授もこう指摘する。
「日本の放送や通信事業などの電波ビジネスは、欧米のようなオークションを導入すれば、2兆円の国庫収入を生むとも言われています。これは、事業者が毎年支払う電波利用料(2019年度は約690億円)とは別の収入です。
総務官僚はそれほどの価値を生む電波を、いわば無料で割り当てることで、放送局や通信事業者に睨みを利かせてきたわけです」