臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、今若い世代を中心に絶大な人気を集めている女性シンガー・Adoについて。
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ランドセルをしょった小学生たちが「うっせぇ、うっせぇ」と声を張り上げながら前を歩いている。「うっせぇ」と言い合いながらも、みんなはしゃいで楽しそうだ。社会現象になっているとメディアで取り上げられていた『うっせぇわ』は、こんな風に子供たちにも浸透していた。
『うっせぇわ』は、女性シンガー・Adoのメジャーデビュー曲だ。昨年10月23日にリリースされ、YouTubeにミュージックビデオ(MV)が公開されると148日で再生回数が1億回を突破したという。リリースからわずか5か月で社会現象になってしまうのだから、そのインパクトは凄い。
パンチの利いた歌声と耳について離れない「うっせぇ」というサビのフレーズ。誰もが一度は感じたことがありそうな社会や大人への不平不満、反抗心や憤り、わだかまり、イライラ、そんなものが歌詞になり曲となり、付きつけられるように迫ってくる。共感できれば、自身が抱えているストレスが発散されるような曲だが、共鳴できなければ耳障りなだけの“うっせぇ”曲だろう。
楽曲もさることながら、Adoは正体がわからないことでも注目されている。MVに顔を出していないのだ。わかっているのはまだ18才の少女で、先日高校を卒業したばかりということ。黒を基調にしたMVの映像に出てくる、長い黒髪をひとつに束ね、切れ長の強い目にセーラー服風のファッションに身を包んだ少女のアニメアイコンはインパクト大。アイコンの少女は感情をぶつけてくるように表情を変え、画面から飛び出てくるような演出で、曲が持つ世界感やイメージを表現している。
ここ数年、素性を明かさないアーティストが増えてきた。以前なら、顔を見せるのはコンサートやライブというのが露出の少ないアーティストのパターンで、メディア嫌いという理由が多かった。だが、今ではその顔すら見えてこない。正体不明にする理由はそれぞれだろうが、メディアが多様化したことで、テレビよりYouTubeやInstagramを主戦場することが可能となった。もはや顔が見えないことが新しい価値を生むような時代になってきた。