古い考え方から自由になってきたといわれるが、いまだに人々はステレオタイプな「男らしさ」に縛られている。これは、ハラスメントが起きたときに被害者が男性だった場合、顕著な歪みとなってあらわれることがある。男らしさの罠にはまり、被害から救済されずにいる男性たちについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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男性がセクハラやパワハラの被害に遭ったとき、それを訴えるのはまだ難しい。たとえ、被害を申し出たとしても、その男性にも落ち度があったのだろうなどと「どっちもどっち」と理由になっていない理由で解決に取り組んでもらえないことや、時には笑われることも珍しくない。
都内の広告代理店勤務・野原晃史さん(仮名・30代)は、小学生の頃から体毛の濃さが悩みだった。胸や腹などはもちろん、脚や腕など、服装によっては露出する部分の体毛が多く、友達からは「小中高大、全て揶揄された」と話す。
「女性に体毛が濃い、なんて言うと一発アウトだと思うんですよ。ところが、それが男性なら問題にならないと思われている。同僚や後輩から、体毛について濃すぎる、気持ち悪い、雪男と言われますが、笑ってやり過ごしている。いや、やり過ごすしかない」(野原さん)
野原さんの記憶に強く残っている「事件」がある。十年以上前、東北地方のある祭りのポスターが「女性客へのセクハラにあたるおそれ」があると公共交通機関での掲示を拒否された件だ。全国ニュースで報じられたときに見たその祭りのポスターには、体毛の濃いふんどし姿の男性が雄叫びをあげているような様子の写真が大きく使われていた。何百年も続いていると言われる祭りの雰囲気をよくあらわしたポスターだと感じたが、伝統文化をないがしろにするのかという声もさほど大きくならず、掲示拒否に対する反発は目立たなかった。
「ありのままの自分でいよう、なんて言われるじゃないですか。ポスターの男性もありのままだったのに、それは気持ち悪いし怖い、と言われてしまう。男性差別だ、という声が出るに違いないと思っていたのに、そう言う人はほとんどおらず、メディアも『苦情があったポスター』と紹介するだけ。歪すぎますよ」(野原さん)
数年前、Yシャツだけになる春や夏を前に、野原さんは腕の体毛を脱毛したが、ツルツルになった腕を見た男性同僚からは「気にしすぎ」とか「余計に気持ち悪い」と笑われた。そのときも野原さんは笑っているだけだったが、いつも同僚が立ち話をしているだけで「自分の体毛のことを言われているのではないか」と、内心では気が気でないのである。毛の濃さにこだわる人も、ツルツルにしたことを笑う人も、普通と言われる「男らしさ」のあり方にとらわれて、野原さんらしさを否定する。そして、野原さん自身も周囲の目が気になって自分らしさを受け入れられず苦しんでいる。