高校野球の聖地・甲子園球場から、ラガーシャツに黄色のキャップをかぶった“あの男性”の姿が消えている。1999年から甲子園の8号門前に寝泊まりし、バックネット裏最前列の「A段73列」に陣取って、常にテレビの生中継に映り込んでいた通称“ラガーさん”が、今年の選抜では見当たらないのだ。
正確にはバックネット裏の最前列が「ドリームシート」となり、近畿圏の少年野球チームが無料招待されるようになった2016年春以来、既にテレビ画面からは消えていた。だが、それ以降もラガーさんは春と夏の甲子園に毎日訪れ、三塁側の最前列に座って観戦。球場の外では声を掛けてくる高校野球ファンと一緒に写真を撮ったり、女子高生のサインの求めに応じていたりしていた。著書も3冊刊行し、あたかも甲子園に棲む高校野球伝道師のような立ち居振る舞いには賛否があったが、姿が消えたとなると、それはそれで不在の理由が知りたくなってしまう。
そこで、ラガーさんこと善養寺隆一氏(54)に連絡を入れてみた。
「えーー、なになに、やっぱりオレのこと、気になってた?」
電話口でいきなりのハイテンション。相変わらずの調子で思わず言葉に詰まるが、まずは事実の確認から。
「今回は甲子園に行っていませんよ。だってさ、コロナで大変な時期に、観戦(感染?)してもまずいでしょ。オレもこれまでいろいろ叩かれてきたからさ。あんな格好で甲子園に行って、万が一、テレビに映ってしまったら、また面白おかしくネットで書かれてしまうから」
ならば目立つ格好で観戦しなければいいのでは。
「いや、オレもあの格好にはプライドがあるから。黄色い帽子と、ラガーシャツ。あなたと違って、オレにも考えがあるの!」
8号門の前に集団で寝泊まりしていた時代は、ラガーさんら常連観戦者のグループ「8号門クラブ」によるバックネット裏の席の占有が、甲子園の“私物化”だと批判が集まり、インターネット上では彼らを排除すべく署名活動も展開された。そうした騒動の末に、バックネット裏の席が野球少年たちに解放されたという経緯がある。
今年の選抜は新型コロナウイルスの感染対策の一環として、観衆を1日1万人に限定。観戦チケットが全席指定となるだけでなく、バックネット裏を含む「中央指定席」が2500円から3900円に、「1・3塁指定席」が2000円から3400円に、これまで無料だった外野も700円と例年より割高となった。
「大会12日間すべて中央指定席を購入すると、手数料もあわせて5万円ぐらいになってしまう。べらぼうに高くなったよね。すべてがネットでの販売で、インターネットがつながらなければ取れるものも取れない。取れたとしても、毎日、違う席になる。それに、もし雨天順延となったら、払い戻しをして、また新しいチケットを買う必要性も出てくる。やってらんないよ」
チケットのプレミア化と値上げも、ラガーさんの足が遠のいた要因なのだろうか。