ひとつ歯車が狂うと、政権は坂道を転がり始める。無派閥で党内の足場が弱い菅義偉・首相の政権基盤を支えているのは、「二階」「創価学会」「維新」の3本柱といわれる。
後見人の二階俊博・幹事長が自民党内に睨みを利かせ、与党では公明党・創価学会とのパイプに支えられ、野党には友好関係にある日本維新の会という“補完勢力”を持つ。その微妙なバランスで、コロナ対策に失敗しても「菅おろし」の動きを防ぎ、政権を維持してきた。
だが、その柱が1つずつ折れていく。蜜月だった二階氏との関係は、いまや冷め切っていると言っていい。
「菅さんは昨年のステーキ会食を批判されて以来、二階さんが誘っても会合に出てこない。Go To停止から緊急事態宣言の発出や解除、解散・総選挙についてもほとんど相談がないことに、二階さんは“俺の支えがないとどうなるかを見せつけてやる”と敵愾心を隠さなくなった」(二階派議員)
創価学会との関係にも大きな変化があった。今年は菅政権の命運を決める4月25日の衆参統一補選を皮切りに、7月の東京都議選、そして解散・総選挙が控えている。
菅首相にとって痛手なのはその折も折、首相のカウンターパートで創価学会の「政治部長」と呼ばれた佐藤浩・副会長が退職したことだ。
佐藤氏は重要な政治課題で政府との交渉窓口を務め、選挙の実務を担当してきた人物。
「菅さんと佐藤さんは安倍政権の集団的自衛権の憲法解釈見直し問題の時から個人的な関係をつくり、以来、これまで政府・自民党と公明党・創価学会との交渉は実質的に2人で決めてきた」(政治アナリスト・伊藤惇夫氏)
菅首相は佐藤氏を通じて強力な集票力を持つ創価学会とパイプを持ち、「学会票」を握ったことで“俺に逆らえば票を回さないぞ”と自民党内で強い立場を築いてきた。
ところが、その佐藤氏が今年2月に定年を迎えて退職した。首相は創価学会との重要なパイプ役を失ったのである。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が指摘する。
「創価学会には菅首相のコロナ対応や長男の接待問題に対する批判が強い。今年は総選挙と東京都議選という学会にとって重要な選挙があるのに、定年とはいえ、首相と太いパイプがある佐藤氏を留任させなかったことは、学会首脳部が菅政権と距離を置こうとしていることを意味している」