映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優としてのキャリアが半世紀に達した国広富之の役作りについて紹介する。
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国広富之は一九九七年のテレビドラマ『失楽園』(日本テレビ)で、ヒロインを精神的に追いつめていく夫役を演じている。
「あれは面白かったですね。それまでファンだった人からは、『国広さんがあんな役をやるなんて』『イメージが壊れる』と言われたりもしました。でも、俳優としては『本当にこの人、こういう人なんじゃないか』と思われるくらいまでやったほうがいいんじゃないかと。嫌がられるのは誉め言葉だと感じていますし、そういう役こそ面白い。そんな仕事を振ってくれるプロデューサーたちに出会えたことは、物凄くラッキーでしたね」
近年では高級官僚や医者など、エリート役を演じることが多くなっている。
「エリートや型にはまった二枚目役は面白くないんです。簡単にできちゃいますから。
お医者さんなら自分のかかりつけの方と接しますし、弁護士さんも何人か知っている。だからどういう動きをするか観察できるんです。でも、官僚は付き合いがないんですよね。ですから、皆さんと同じようにテレビを観るようにしています。誰もが持つイメージをフィードバックしていけばいいわけですから。
国会で何かの報告をする時とか、事務次官が記者会見で頭を下げる時とかに、『どんな顔をしているんだろう』『年齢の割に髪の毛が白いな』といったところを観察しながらね。
そうやって一つ一つをインプットして引き出しに入れておくんです。そうしたら、いろいろと応用が利く。絶対的に多くの方が観ている姿って、それだけ説得力があるわけですから。そういう最大公約数として、頭に入れておくわけです」