音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、三遊亭白鳥が無観客生配信で見せた熱演についてお届けする。
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2月20日、僕がプロデュースする「代官山落語オンライン夜咄」で、三遊亭白鳥の『死霊のラクダ』を無観客で生配信した。無観客配信は昨年5月に白鳥が『メルヘンもう半分』を演じて以来。その“歴史的名演”は語り草だが、今回もそれに勝るとも劣らぬ見事な高座だった。
らくだが死んで始まるのが古典の『らくだ』だが、『死霊のラクダ』は「らくだを活躍させ、オチもラクダにちなんだものにしたい」と思った白鳥による改作。江戸時代にラクダが長崎に輸入されたこと、“かんかんのう”も海外から長崎に伝わった踊りであることをマクラで語ってから本編へ。この“長崎” が本編のキーワードとなっている。
らくだの兄貴分、丁の目の半次に命じられて屑屋が月番である本屋に「らくだが死んだ」と伝えると、本屋は「長崎伝来の『悪魔の書』をあいつに渡したから、その祟りだろう」と言う。だが『悪魔の書』はその後らくだから屑屋に渡っていた。
大家を脅して手に入れた酒を半次が屑屋に飲ませると、酔った屑屋は「らくだにボコボコにされた」と涙ながらに語る。半次は金で殺しを請け負う恐ろしい人物で、らくだは絶対服従だった。「俺がいたらお前にらくだを殴らせてやった」と半次が言うと、屑屋は『悪魔の書』に書かれた呪文で悪魔を呼び出して死者を蘇らせることを思いつく。
儀式に必要な“血染めの聖杯”は屑屋の血で染まったらくだ所有の茶碗、以前らくだが大家に斬りつけた“長崎で盗んだ剣”とは伝説の剣ゴッドスレイヤーだった……というのは白鳥らしい見事な“伏線の回収”だ。
呪文によって降臨した大魔王ルシファーがゾンビのようにらくだを蘇らせると、酒乱の屑屋はそれをボコボコに。「地獄へ道連れにしてやる」と反撃するらくだを屑屋は『悪魔の書』にある呪文「アジャラカモクレン、テケレッツのパー」で地獄に送り返そうとするが、ルシファーの力が宿ったらくだには効かない。