名馬の激突はGIの醍醐味である。古馬中距離王を決める戦いは見どころたっぷりだ。競馬ライターの東田和美氏が分析した。
* * *
GⅠ4勝馬2頭の対決。ここは「穴狙い」とか「一角崩し」などと考えず、素直に無敗のクラシック三冠馬と、アーモンドアイ完封も含む短距離GⅠ4勝馬のレースぶりを味わいたい。それぞれの適距離ではなかったとはいえ、3000mと1200mのGⅠを勝った馬が同じレースで走るのは、路線が多様化した近年では、しばらく見られなかった。興味はそこに尽きる。
テリトリーの異なる有力馬同士の対決といえば春のグランプリ宝塚記念。2200mという距離のため、前走天皇賞(春)と安田記念の上位馬が出走、距離延長組と距離短縮組の力関係が馬券検討の焦点だった。天皇賞(春)からの参戦が計14勝、安田記念からは4勝と短縮組が圧倒していた。1着馬同士が対戦したのは、平成以降3回あって、うち2回は天皇賞(春)の勝者が勝っている(余談だが平成初期、1992年と1993年の2着馬はともに天皇賞と安田記念を両方使っての参戦だった)。 しかし2007年にメイショウサムソンとダイワメジャーが顔を揃えて以降、こういうGⅠ馬同士の対決は見られなくなった。
菊花賞を勝ったとはいえコントレイルは2000mのGⅠを2勝、一方のグランアレグリアもスプリンターズSの他は、マイルGⅠを3勝しているので、実は適距離にそれほど差はないようにも思える。
しかし1200mがGⅠになって以来、その勝者が2000m以上のGⅠを勝ったことは一度もない。バンブーメモリーが1990年に当時2000mのGⅡだった高松宮杯に勝ち、半年後のスプリンターズSに勝っただけ。1980年代に1200mで4戦4勝、1400mでも6戦5勝というニホンピロウイナーが現在のマイルGⅠを3勝、シンボリルドルフがギャロップダイナに敗れた1985年秋の天皇賞で、差のない3着に来たのが語り継がれているほどだ。
GⅠスプリンターで2歳時に1800mの重賞を勝っていた馬は何頭かいる。スプリント路線を勝った馬の2冠はマイルまでだった。ナリタブライアンは引退レースが高松宮杯で4着に敗れているが、当時は出走すること自体、けっこう物議を醸したものだ。
GⅠ馬の距離延長といえば1200mのGⅠを3勝していたロードカナロアが2013年に安田記念を、マイルGⅠを4勝していたモーリスが2016年の天皇賞(秋)を勝っている。ロードカナロアも距離経験は1600mまでだし、モーリスもそれ以上の距離に進むことはなかったが、両馬が種牡馬として多くの活躍馬を送り出しているのは、適距離の幅があるため優秀な繁殖牝馬に恵まれている、ということが大きい。ついでにロードカナロアはサンデーサイレンスの血を持たないし、モーリスにとっても曾祖母になるので、選択肢が広がった。
さて、グランアレグリアという馬は大事に大事に育てられてきた。
新馬・重賞と勝ちながら、阪神ジュベナイルフィリーズまでは「1週間足りない」と牡馬相手の朝日杯フューチュリティステークスに出走。翌年ぶっつけで桜花賞を勝ちながら、「平常心で走ることができるか」という不安から、オークスへは向かわずNHKマイルカップに。秋はスプリンターズステークスから始動の予定も、歩様の悪化から2週前に回避。翌月にはマイルチャンピオンシップ回避も決断して暮れの阪神カップを目標に。