1980年代から全国で社会問題となっている放置自転車には、美観を損ねるといった見た目の問題だけでなく、多くの人が行き交う駅前などで避難や救助の妨げなどの防災上の問題もあるため監視員が置かれていることが多い。その大半は高齢者だが、監視員による見回りと警告はトラブルに発展することも。俳人で著作家の日野百草氏が、非正規雇用で放置自転車監視員として働く70代男性に「反論する人たち」と高齢者の労働について聞いた。
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東京、JR沿線の駅前ロータリー、昔に比べればすっかり綺麗になったが、それでも駐輪禁止区域に放置自転車が散見される。その自転車に一台一台、「駐輪禁止」の黄色い紙、警告テープを巻きつけている老人がいる。放置自転車監視員の田中秀吉さん(70代・仮名)だ。筆者を見るとマスク越しに目を細める。
「まいったよ、いつものことだけど」
その「いつものこと」の一部始終を筆者は目撃している。10分ほど前だろうか、田中さんは迷惑駐輪の男性と揉めていた。高級マウンテンバイクをがっつり支柱にロックしていたその男は50代くらいだったか、田中さんとしばらく口論ののち、警告テープをまるめて路上にボイ捨てして走り去った。男は「ちょっと止めただけだろ」などと抗弁した。そして田中さんに「天下りが偉そうに」とも言い放った。その態度、高価な自転車が台無しだ。
「天下りって、ただのバイトなのにね。仕事だから我慢するけどさ。だいたい天下りがこんな仕事しないよ」
田中さんは時給1020円で働く民間企業のアルバイトである。元公務員でもなければシルバー人材センターのスタッフでもない。知らない人が多いかもしれないが、最近の自治体の放置自転車監視員は受託した民間企業が派遣する時給、日給のアルバイトが多い。先の迷惑駐輪男の言うような元役所の「天下り」は減った。昔は役所の再雇用でそれなりの額をもらってネチネチと住民を注意してまわる親方日の丸意識の監視員もいたが、いまや自治体の予算も厳しく現業職員も減ったため、こうした仕事は警備会社や派遣業者に委託している。もっとも、自治体によっては(とくに仕事の少ない地方都市など)旧来通り直接雇用の委託職員という場合もあり、その辺は地域差がある。
「嫌われ者(もん)も楽じゃないよ」
嫌われ者(もん) ―― 休憩時間、喫煙スペースで缶コーヒーをすする田中さんが自嘲する。確かに、昔から駅前などで迷惑駐輪を注意する監視員への怨嗟は凄い。現在でも匿名掲示板はもちろんSNSなどで「駐輪 ジジイ」「駐輪 オッサン」と検索すれば放置自転車監視員を指しているであろうツイートはいくらでも出てくる。そのほとんどは逆ギレや言いがかりだが、田中さんはネット上どころか面と向かってリアルにその逆ギレを食らっている。
「嫌な仕事は下に押し付ける、仕方ないことだけどね」