大関に返り咲いた照ノ富士と白鵬には浅からぬ縁がある。ともにモンゴル・ウランバートル市出身であることはもちろんだが、実は照ノ富士はモンゴル時代、白鵬の父であるジグジドゥ・ムンフバト氏に柔道を習っていた。ムンフバト氏はモンゴル相撲の国民的英雄であり、白鵬は裕福な家庭で不自由なく育ったわけだが、照ノ富士も同じように恵まれた家庭環境で育ち、二人とも学業も優秀で、母国にいればエリート街道を歩んだであろう「お坊ちゃん」だった。
そんな二人だが、土俵の上では過去4年間、すれ違いが続いている。初対戦は2014年九月場所で、すでに横綱だった白鵬が前頭1枚目の照ノ富士の挑戦を退けて以来、白鵬の9勝4敗の戦績が残っているが、最後の対戦は2017年五月場所にさかのぼる。照ノ富士はすでに大関に昇進していたが、14日目に優勝争いの相手だった白鵬に直接対決で敗れて準優勝に終わった(白鵬が優勝)。
その場所後に照ノ富士は左膝の遊離軟骨を除去する手術を受け、その回復が思わしくなかったために転落が始まった。4場所連続の途中休場、その間に17連敗を喫し、十両陥落してしまったために、番付の頂点にいる白鵬と対戦することはなかったのである。その後、2019年三月場所で序二段まで番付を下げた照ノ富士は、そこからようやく復調して快進撃を続け、2020年七月場所で再入幕を果たす。
この場所で照ノ富士はいきなり優勝するのだが、前頭17枚目だったために終盤まで白鵬との対戦は組まれず、その白鵬は13日目から休場してしまったために相まみえることはなかった。そこからは白鵬の「休場街道」が続いたために(今年三月場所は2日間だけ出場したが)、現役の横綱と大関が丸4年間対戦していないという珍事が起きたのである。
すでに五月場所の休場を表明している白鵬と「再大関」の照ノ富士が激突するのは七月場所になる。横綱・大関戦だから、終盤まで両者が休場も引退もしていないことが条件だが、対戦があるとすれば優勝争いに絡む一番になることはほぼ間違いないし、白鵬にとっては、もし敗れれば世代交代を認めざるを得ないだろうから、引退をかけた一番にもなる可能性が高い。二人の因縁を考えても角界史に残る大一番である。
照ノ富士は今から手ぐすね引いてその瞬間を待っているはずだ。『週刊ポスト』(4月5日発売号)が詳報しているが、照ノ富士の転落と復活には、実は白鵬が起こした「重大事件」が深く関係していたからである。