メディアには数多くの「感染症の専門家」が登場し、さまざまなコロナ対策を提示してきた。そういった対策には本当に効果があったのか。
小林よしのり氏(漫画家)と宮沢孝幸氏(京大准教授・ウイルス学者)の対談本『コロナ脳』(小学館新書)より、「感染症の専門家」に関する両者の議論を抜粋して掲載する(対談は2021年1月下旬に行なわれ、情報はその時点のもの)。
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小林:今回のコロナ騒動ほど、メディアに医学の専門家が次から次へと出てきたことはないと思うんだけど、これでよくわかったのは、医学の専門家というのは、自分の専門分野には詳しいかもしれないが、同じ医学でも別の分野になると意外に知らないということ。
宮沢:政府の専門家会議にも、その後の分科会にも、感染症や防疫、分子ウイルス学の専門家はいるけど、コロナウイルスの専門家はいない。感染症が専門なら、コロナ風邪のことだってわかるだろうと思うかもしれませんが、感染症と風邪の専門家はまったく違います。これも別のジャンルです。
今回のコロナ騒動でウイルスというものがメジャーになりましたが、お医者さんでウイルスをちゃんと勉強している人って少ないです。そもそも感染症という分野が医療の世界ではメジャーではない。なぜかというと、動物と違って人の場合、感染症はかなり制御されていて、これまであまり問題にならなかったから。特に先進国ではそうです。だから、感染症、ウイルスの専門家が少ない。
だけど、動物の場合は、鳥インフルだのBSE(牛海綿状脳症)だのコロナだの、いろんな細菌やウイルスがいて、感染症があって、それに対処しなければいけないから、感染症が研究のメインです。いくつかの大学にウイルスや感染症の研究所がありますが、教授になっているのはけっこうな割合で獣医、獣医学部出身者なんです。
SARS(重症急性呼吸器症候群)のときも、感染研は医者でコロナの専門家がほとんどいなかったから、獣医から人を呼んだんですよ。だけど、SARSがすぐ収まっちゃったから予算が削られちゃったんです。今回もそうでしょう。
小林:ひでえ話。
宮沢:獣医は使いっぱしりだと思っている。だけど、私ら獣医はプロフェッショナル意識があるから、変なウイルスに感染して殉死してもそれはしょうがないと思っている。だって、仕事だから。消防士が火事があったら駆けつけて、ホースで水かけるのと一緒です。新興感染症って動物のウイルスがヒトに感染して起きるわけで、どこのどんな動物がそのウイルスをもっていて、どうやって感染したのか調べるのも獣医の役目なんですよ。もちろんヒトの検査もします。血液も検査します。海外に調査に行くのは、ほとんど獣医なんですよ。
小林:ウイルスの最前線にいる。