生きていくために必要不可欠な「お金」。反社会的勢力であるヤクザの収支バランスは、一般社会とは、まったく異なるものだ。このたび『職業としてのヤクザ』(小学館新書)を上梓した暴力団取材のプロ2人、溝口敦氏(ジャーナリスト)と鈴木智彦氏(フリーライター)によれば、ヤクザの“家計簿”はとにかくケタが違うという。
溝口:彼らの言葉で、「喧嘩をすれば金が湧き出す」という。暴力団にとって抗争は、人的にも金銭的にも「必要経費」という考え方がある。あるいは長期的に見れば「将来投資」という言い方もできるかもしれません。
鈴木:確かに損害も含め、抗争はビジネス的な観点から見ても成り立っています。例えば、ある地域のソープランドの利権を取りに行って喧嘩した場合、勝てば、その利権はすべて自分に入って来る。さらに、相手からも落とし前が取れる。そういう意味で、収支が合う抗争というのがあるわけです。
溝口:損して得取れ、と。
鈴木:一度、大きな抗争を経験した暴力団のトップに、抗争の経費がいくらかかるか聞いたことがあるんです。そうしたら、年間5億円と言っていた。
例えば襲撃に備えて防弾車をつくるために、自分たちで海外に出かけ、ピストルを撃って車を潰したりする。日本に防弾車なんかありませんから、自分たちで仕様をつくる。それに、潜っているヒットマンに渡す経費が馬鹿にならない。ターゲットを殺すためにずうっと張り込みして、つけ狙い、一瞬のチャンスを待つのですから、シノギなんてしていられません。
そのための住居だとか、車だとか、食事だとか、さまざまな費用がかかる。ヒットマン1人につき、月に20万円かかったとする。10人いたら200万円です。実際はもっと人数がいるはず。そして何年続くかわかりません。
溝口:今は抗争が長期化しやすいし。
鈴木:人1人殺すために、2年、3年張るかもしれない。そのために、10人のヒットマンを潜らせるのと、1人しか潜らせられないのと、どっちが強いかっていったら、10人潜らせたほうが強い。それだけでも経費は10倍違います。とにかく抗争は金がないとできません。