“カタギ”とはまったく違う世界に住むのがヤクザだ。当然ながら、その金銭感覚もまったく異なるものだ。このたび『職業としてのヤクザ』(小学館新書)を上梓した暴力団取材のプロ2人、溝口敦氏(ジャーナリスト)と鈴木智彦氏(フリーライター)によれば、ヤクザの“家計簿”は収入も支出もケタ違いだという。溝口氏と鈴木氏が解説する。
溝口:ヤクザの支出として大きいのは、「義理事」という慶弔交際費。やれ、誰それが何代目を継いだとか、誰それが刑務所から出てきたとか、あるいは誰それの葬式とか、そういうときに金が出ていく。
鈴木:ヤクザの慶弔交際費はとても高額です。
溝口:ヤクザに言わせると、出した金はいずれ自分に戻ってくる。自分のときには、自分が金を出した相手側が金を運んでくれるということで、貯金みたいなものだと、以前は言っていました。つまり、協同組合的な要素があります。要するに、われわれ個々の人間が不幸のときは助け合うとか、ヤクザ間の共済的な意味合いがあった。バブル期には慶弔交際費の金額は非常に膨らんでいました。
鈴木:以前は葬式だと、組としてとヤクザ個人として、二重に香典を包んでいました。しかし、組織が大きくなると単純に組員の数が増えるので、葬式も多い。だから、大きい組織と小さい組織が付き合っていたら、圧倒的に小さい組織から出ていく金が多くなってしまいます。慶弔交際費というのは、襲名式や葬式などに名を借りた組織の金集めですから、何かにつけて葬式をやりたがる。組員の親が死んだときまで呼ばれたりもする。
そこで20年ぐらい前から、義理事においては個々の付き合いはやめ、組織と組織にしましょうとなりました。
溝口:組織と組員がそれぞれ出していたら、組が潰れてしまうと。