昭和を彩った角界の大スターには、自他ともに認める「好敵手」がいた。1963年9月22日の蔵前国技館、千秋楽結びの一番は全勝同士の横綱対決となった。今も角界で「昭和最高の決戦」と呼ばれる一番だ。
西の横綱・柏戸は4場所連続の休場明け。対する東の大鵬は前年7月から6場所連続優勝中。大方の予想では柏戸の敗色濃厚だった──。
対照的な2人は国民を魅了した。好角家で知られる芥川賞作家の髙橋三千綱氏が回想する。
「土俵を広く使い、懐が深い相撲を取る柔の大鵬に、一直線で相手を土俵外に運び出す剛の柏戸。今の相撲で一番ダメなのは、肝心なときに引いて墓穴を掘る力士ですが、この2人は絶対に引かなかった。横綱同士はこんな相撲を取るんだと、子供心に感動しましたよ」
2人の取組を実況した元NHKアナウンサーの杉山邦博氏は、今でも鮮やかに脳裏に甦るという。
「柏戸さんの一番で“柏戸、走った”と表現をしたことが何度もあった。立ち合いから1~2秒で相手を一直線で土俵の外にもっていく。対する大鵬さんは土俵の曲線をうまく使って勝つ。速攻の柏戸はアナウンサー泣かせで、じっくり取ってくれる大鵬さんはアナウンサー冥利に尽きました。
2人にはドラマがあった。新入幕で11連勝していた大鵬さんに土を付けたのが小結だった柏戸さんでした。リードしていた柏戸さんに大鵬さんが追いつき、同時に横綱に昇進。その後、一気に追い抜いた。世間が“大鵬時代”の到来を確信していたときに、あの千秋楽の一番があったんです」
立ち合いは互角だったが、右を覗かせた大鵬が土俵際まで一気に寄って出た。こらえながら左前まわしを引きつけた柏戸が寄り返し、右に回り込みながら右下手を奥深くに差すと、そのまま正面に寄り切った。