「母を追い込んだのは、父の死でした。母の生活を支えていた父が急に亡くなったことで、母の病が格段に進んだのです」
そう語るのは、ジャーナリストの安藤優子氏(62)。ニュース番組のMCという多忙な仕事を抱えながら、16年間にわたって実母を介護した安藤氏は、父親の死が大きな転機だったと振り返る。
「父が亡くなる前から、母には軽い認知症の症状がありました。でも父が食事や買い物からペットの世話にいたるまでの生活全般をサポートしていたので、母の症状は軽度にとどまっていた。父が母の生活リズムを支える柱だったんです」
だが父親は2006年にがんが発覚してわずか半年で亡くなり、“柱”を失った母親の病状はみるみる悪化していった。
「父は車で、母の大好きなお花の直売所に連れていったりしていましたからね。日常から四季を失ってしまった母は生きる気力を失い、自宅マンションに引きこもるようになりました。
すると運動不足で体重が増加して膝が痛むようになり、さらに活動が乏しくなって認知症が進行した。母の心だけでなく生活も荒んだものになりました。部屋も荒れ放題で、ペットの排泄物が転がったままになっていることもありました」
父の死後、安藤氏は兄妹持ち回りでひとり暮らしの母を在宅介護した。多忙な日々を過ごしていた安藤氏は、仕事と介護の両立に奔走した。
「金曜日の生放送を終えて埼玉の実家に駆けつけ、週末に泊まりがけで介護することはしょっちゅうでした。最もしんどかったのは、母がヘルパーさんに“モノを盗られた”といった妄想を抱くようになったこと。自分が仕事をする間は第三者に介護をお任せしていたので、そこを本人に拒絶されたら、どうすればいいかわからなかった。
父と母の関係には母子の関係とは圧倒的に違う緊張感と信頼感があったので、“お父さんが生きていれば、お母さんはもっとシャンとしていただろうに”と思ったこともありました」