【著者インタビュー】東川篤哉氏/『新 謎解きはディナーのあとで』/小学館/1600円+税
〈失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか〉等々、頭脳明晰にして傍若無人な執事兼運転手〈影山〉と、実はかの宝生財閥の令嬢で国立署刑事〈宝生麗子〉のコミカルな応酬が楽しい、東川篤哉著『謎解きはディナーのあとで』シリーズ。
待望の新章では影山の名推理のおかげもあって本庁に栄転後、結局は所轄に戻された〈風祭警部〉の復帰と超天然な後輩刑事〈若宮愛里〉の加入が、5つの殺人以上の事件と言えよう。
これまでの東川作品同様、「風祭警部の帰還」から「煙草二本分のアリバイ」まで、全5編に漂う脱力系ユーモア自体が、読者を油断させ、注意力を散漫にする謎や伏線の隠し場所。そもそもユーモアミステリとは笑いをもロジックに使った本格推理小説のことであり、「論理や手掛かりを笑いにまぶして語るのが理想」と、斯界の第一人者は言う。
ちなみに著者には『私の嫌いな探偵』(2013年)といういかにも人を食った表題の作品があるが、毒舌執事とお嬢様刑事による安楽椅子探偵物という設定はまさに、「みんなが大好きな設定」だったのだと、累計420万部を突破したこの国民的シリーズに改めて思う。
「『退職刑事』(都築道夫)に形態は近いかもしれません。捜査権を持たない探偵役が、現場の情報を人づてに聞き、推理は主に家の中や食卓で披露されるという。その隔靴掻痒的な感じが安楽椅子物の魅力でもありますし、この新章では麗子はお騒がせな上司に加え、新人の面倒まで見ることになり、家に帰っても影山にイジられるのが気の毒なくらい、疲れている(笑い)」
ここで経緯を簡単に説明すれば、『謎解きはディナーのあとで ベスト版』(2019年)所収の書き下ろし短編で、とある政治家の怒りを買い、本庁を追われた風祭の左遷先が今再びの国立署。愛里は当初、その風祭が戻るまでの繋ぎ役として登場させたに過ぎなかったとか。
「僕の中では影山と麗子と風祭の3人でこの話はほぼ完成していて、新キャラを出す予定はなかったんです。編集部の意向で2話以降も出すことにしたんですが、確かに天才と愚才の紙一重感はあるし、風祭を超えるモンスターに化けてもおかしくはないキャラかも」
そしてお約束通り純白のスーツに身を包み、愛車ジャガーの爆音と共に現われた風祭モータースの御曹司と麗子がまず手掛けるのは、自室の天井から首を吊った状態で発見された変死体の謎である。死亡者は国枝物産社長〈国枝芳郎〉の実の長男で同取締役の〈雅文〉35歳。発見者は芳郎と子連れで再婚した妻〈久江〉と家政婦の〈竹村〉。通報者は久江の連れ子で雅文と1歳違いの義弟〈圭介〉だった。