〈中国湖北省東部で原因不明の肺炎が複数発生〉。世界保健機関(WHO)が2020年1月にこう発表してから15か月。この間、新型コロナウイルスは全世界で猛威を振るい、累計感染者数約1.4億人、同死者数約300万人を記録した。このパンデミックは今後、どのような展開を辿るのか──見通せない未来を推測するために、20世紀初頭に世界中で流行したスペインかぜのケースで検証してみよう。
コロナワクチンが開発されるなど光明もあるが、日本では医療従事者や高齢者向けの優先接種が始まったばかり。大阪などを中心に感染の広がりを見せる変異型ウイルスの懸念も広がり、先行きは見えない。
この状況はいつまで続くのか、その参考となり得るのが、人類が疫病と戦ってきた歴史である。かつて世界を襲った感染症は、発生後どのように増加し、いつ収束したのか。発生から1年後、2年後、5年後、10年後の動向を見ていく。
いまから約100年前(1918年)に世界中で流行した「スペインかぜ」には当時の世界人口の3割近くに相当する約5億人が感染し、死者数は4000万人といわれている。東京慈恵会医科大学教授の浦島充佳医師(予防医学)が解説する。
「スペインかぜは第一次世界大戦中に流行した感染症で、現代でいう『A型インフルエンザ』です。大戦によって国をまたいで大勢の人が行き交うようになり、それに伴いパンデミックが引き起こされたと考えられています」
スペインかぜは、発生から拡大まで大きく「3つの波」に分かれて感染が確認された。
「当時の内務省が感染の経過についてまとめた『流行性感冒』という報告書を見ると、日本では3回にわたって流行が起きていたことがわかります」(浦島医師)
日本に上陸したのは欧米諸国から約半年遅い1918年8月以降。9月後半に日本全土に拡大した。翌年春までの約半年間が感染のピークで、当時の総人口の4割近い2000万人以上が罹患し、25万7000人の死者を出した。
第1波の1年後には第2波が襲来。新規感染者数は年間241万人に減ったものの、ウイルスは性質を“変異”させて強毒化したと考えられており、致死率が約4.3倍に高まった。1919年12月20日付の『香川新報』は〈感冒は頗る悪性にて約二割の死亡者を出しつつあり〉と報じている。さらに翌1920年に第3波が生じたが、感染者数は年間22万人にまで減少した。