「スマホは若者が使うもの」──そんなイメージは、すでに過去のものとなっている。総務省・情報通信政策研究所が昨年発表した調査によれば、50代のスマホ利用率は88.1%、60代でも77.2%に及んでいる。その後も通信各社は次々とスマホの格安プランを提示し、スマホ契約へのハードルも下がっている。まさに、中高年のスマホ依存は進む一方だが、その実態はどうなっているのか。
昨年、長年使ったガラケーからスマホに乗り換えた66歳男性が言う。
「YouTubeで若い頃好きだったグループサウンズの古いライブ映像を見たり、オンライン将棋で対戦したりするのが楽しくて、すっかり手放せなくなりました。定年退職して自由な時間が増え、スマホがいい“暇つぶし”になってるんです。気がつけば、電車での移動中や寝る前のわずかな時間でも画面を見つめてしまっている」
中高年のスマホ依存度の高さはデータでも示されている。
スマホやネットの消費者動向をリサーチする「MMD研究所」が15~69歳の男女560人を対象に昨年行なった調査によると、60代男性の65.2%がスマホに「かなり依存している」もしくは「やや依存している」と回答した。これは10代、20代と変わらない水準だ。
『スマホ廃人』(文春新書)の著書があるジャーナリストの石川結貴氏が言う。
「私の取材でも、組織で活躍する機会が少なくなった中高年がスマホに依存する傾向は強く見られました。ゲームやSNS、動画配信サービスなどのコンテンツは、若い頃にインターネットに触れてこなかった世代にとっては非常に刺激的です。お金もほとんどかからず、昼夜問わず利用することができるため、際限なくスマホに没頭してしまう人が増えているのです」
日常生活の延長で無意識のうちに「スマホ脳」になっていく若者と異なり、「中高年のスマホ脳」は新たな世界に自ら入り込んでいくだけに、その変化の影響は大きい。
脳神経外科医で『その「もの忘れ」はスマホ認知症だった』(青春新書)の著書がある、おくむらメモリークリニック院長の奥村歩医師が言う。
「私のクリニックでは、このところ物忘れが急激に進んだと訴える50~60代の受診が増えています。多くの患者に共通しているのは新たにスマホを使い始めたり、昼夜問わずスマホを利用している実態が見られること。私はこれらの患者の物忘れの原因を、スマホの過剰使用による『脳疲労』が原因だと考えています。
人間の脳の記憶や情報処理は、(1)見たことや聞いたこと、経験したことをインプットする『記銘』、(2)覚えた情報を仕分けして脳内にストックしておく『保持』、(3)脳内から必要なものをアウトプット(出力)する『検索・取り出し』の3段階に分かれます。
とくに定年前後の世代は、仕事から距離を置くことで『検索・取り出し』の機会が激減する。そのためIT機器から情報を詰め込みすぎると、脳内にゴミを溜めこんで整理できない状況となり、脳の機能を著しく低下させてしまうのです」