宝くじで一等があたっても誰にも当選を話してはいけない、とよく言われている。当選金が目当ての色々な人が群がってくるからなのだが、新型コロナワクチンをめぐっても、似たようなことが起きつつあるらしい。ライターの森鷹久氏が、ワクチン接種によって思わぬトラブルに巻き込まれた人たちについてレポートする。
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医療従事者などに限定されていた新型コロナワクチンの接種だが、一部自治体では高齢者への接種も開始された。テレビでは、実際にワクチンを打った高齢者へのインタビュー、副反応がないかの検証、受けたくても接種予約を取れなかったという市民の憤りなどが報じられているが、一番気になるのは「自分がいつ接種できるのか」ということに尽きる……そんな人も少なくないのかもしれない。
そうした思惑が原因で、ワクチンの接種をめぐり思わぬトラブルに巻き込まれたという高齢者が存在する。
「受けた、なんて言えないよね。内心では安心できる、なんて思っているけど、世知辛い世の中だからね」
東京・八王子市在住の無職・越部守さん(仮名・80代)は、4月上旬にワクチンを接種。基礎疾患があったためにいち早く接種を望んでいることを知った越部さんの息子(50代)と孫(20代)がネットを使い予約してくれたという。高齢の近隣住人たちからも電話での予約を試みたという声が聞こえてきたが、予約が取れたのは自身のみ。近くに住む住人に「運が良かった」と話していると、突然、泣きつかれた。
「ご近所さんの奥さんの体が弱くてね、ワクチン接種したいのに予約から漏れちゃったと。早く受けたいから、予約の権利を譲ってくれと言われて、それは流石にできないと断ったけど」(越部さん)
この件以来、ワクチン接種の予約が取れたことは家族以外には秘密にしていたが、噂はあっという間に広まった。自宅の電話には、話を聞いたという町内会の高齢者から電話がかかってきて「予約の取り方を教えて欲しい」と聞かれたり、どこからか情報が漏れたのか、新聞社やテレビ局からも電話がかかってくる始末。
「恥じたり隠す必要はないと思いつつも、息子と相談してこのことは『秘密』にしようとなってね。接種当日も、息子に迎えにきてもらい、ご近所さんに隠れるようにして家を出た」(越部さん)
無事に接種が終わり、注射跡が赤く腫れてはいるものの、目立った副反応はないと話す越部さん。接種が複数回に及ぶ可能性もあり、次回の接種でも同様の思いをしなければならないのかと思うと、気が重いと話す。