11年前に宇宙飛行士として任務を遂行した、元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏。現在では宇宙政策や宇宙旅行に関する活動を精力的にこなしている。自身の宇宙滞在から今後の宇宙開発の展望まで語った。
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私がISSでの約2週間のミッションを行ったのは、2010年の4月のことでした。当時、ISSには長期滞在クルーとして、いままさに3度目の飛行をしている野口聡一さんが滞在していました。ISSでの公用語は英語ですが、ハッチを開けたときに「いらっしゃい」という声がまず聞こえ、いきなり日本語が耳に届いたことに驚いたものでした
宇宙での仕事は分刻みの忙しいものですが、私たちはその合間に寿司を他のメンバーに振る舞ったり、2人で和楽器を合奏するイベントをしたりしました。今年4月には星出彰彦さんが、その野口さんのいるISSにコマンダー(船長)として滞在する予定です。あのときの私たちがそうだったように、日本人が2人いるからこそ、「日本の文化」や強みを宇宙から表現する機会も増えるでしょう。2人がどんな発信をしてくれるか、今から楽しみにしています。
さて、私が宇宙でのミッションを経験してから、すでに11年の歳月が過ぎました。いま、世界の宇宙開発は大きな過渡期を迎えています。アメリカは月軌道に宇宙ステーションを作る「アルテミス計画」、いわゆるゲートウェイ構想を予定しており、日本もその計画に参画することになっています。
ISSの周回する地球の低軌道を離れ、月、さらには火星までを見据えた持続的な有人宇宙活動が行われていく──そのなかで月面に恒久的な施設が建造され、様々な分野の研究者などが滞在し始めれば、私たちにとって「月」もまた、南極のドームふじ基地のような場所になっていくのではないでしょうか。
また、同時に低軌道の活用が民間企業に広がることで、例えば「宇宙旅行」も身近になってくるはずです。ISSまで行くためには10億円単位の資金が必要ですが、上空100キロメートル付近の宇宙に到達して戻ってくる「サブオービタル」の旅行の費用は約2000万円。すでに申込者が700人を超えており、今後はより安価になっていくはずです。多くの人が海外旅行のように宇宙に行ける時代は、すぐそこまできているわけですね。