これほどまでに「イチャモン」という言葉が似合う出来事はあまりない。日本政府が発表した福島第一原発で保管しているトリチウムを含む処理水を希釈して海洋放出する計画について、中国と韓国は同盟でも組んだように「極めて無責任」「断固反対」「国際海洋法裁判所に提訴する」などと騒いでいる。非科学的で恥ずかしいだけではなく、そもそも自分たちも平気で同じものを海や大気中に捨ててきたのだから、よくもここまで堂々と天ツバの主張ができたものだと感心してしまう。
『週刊ポスト』(4月26日発売号)では、このうち一番、声高に日本を非難している韓国の問題を特集している。簡単に言えば、韓国の月城原発では例えば2016年に日本海に17兆ベクレルのトリチウムを含む処理水を放出し、ほかに大気中には119兆ベクレルも放出していた。福島第一に保管されているトリチウムの総量は860兆ベクレルだからこれより多いが、日本政府の計画は、これを1500ベクレル/リットルまで薄めたうえで、年間22兆ベクレル以下の量で少しずつ放出するというものだ。年間放出量は韓国の月城原発が2016年に放出した6分の1以下であり、濃度についてはWHO(世界保健機関)が定める飲料水に関するトリチウムの安全基準である10000ベクレル/リットルの6分の1以下だ。
そもそも、トリチウムは自然界にもいたるところに存在する放射性物質であり、もともと海水にも含まれる。もちろん濃度は低く、日本で過去に行われた調査では数ベクレル~10数ベクレル/リットル程度とされているから、放出される処理水の数百分の1程度だ。そう聞くとやはり放出水は危険なように感じるかもしれないが、WHOが飲料水の安全基準をさらに高く設定していることには科学的な根拠がある。
放射線が人体に与える影響はSv(シーベルト)という単位で表される。WHO基準である10000ベクレル/リットルのトリチウムを含む水を1リットル飲んだ場合の影響は0.00018mSv(ミリシーベルト)にすぎない。これを毎日飲み続けたとしても年間で0.0657mSvで、これは自然界から誰もが受ける被ばく量からすれば無視できる程度である。自然放射線による影響は、世界平均で年間2.4mSv、日本の平均はそれより低く2.1mSvだから、0.0657mSvは日本人が年間に被ばくする放射線量の32分の1である。あり得ない想定だが、それよりさらに影響の小さい福島の放出水を仮に毎日30リットル飲み続けたとしても、日本人の被ばく量は世界の自然放射線被ばくの平均にも達しない。