5月場所の番付発表を前に、唐突に思える発表だった。4月19日、相撲協会が設置した「大相撲の継承発展を考える有識者会議」は両国国技館で最終会合を開き、山内昌之委員長(東大名誉教授)が八角理事長(元横綱・北勝海)に提言書を提出した。そのなかに、〈一代年寄の名乗りを認める根拠を見出せない〉との問題提起があったのだ。
力士が引退後も親方として協会に残る場合、105ある年寄名跡のうちのどれかを襲名しなくてはならないが、功績著しい横綱に対しては「現役時代の四股名のまま親方となる」ことを認めている。それが「一代年寄」だ。これまでに大鵬、北の湖、貴乃花の3横綱が一代年寄を襲名している(千代の富士は辞退して「九重」を襲名)。
一代年寄となるためには、幕内優勝20回が目安といわれてきたが、提言書では名跡が一代限りで弟子への継承は認められないことから、〈大相撲の師資相承の伝統からも外れたいわば「異形」の資格〉だとし、明文化された規定がないことなどを挙げて〈公益財団法人としての制度的な裏付けとは整合しない〉と指摘している。
名指しこそしていないものの、引退の瀬戸際にある横綱・白鵬を念頭に置いた記述であることは明らかだ。「歴代最多の優勝44回を数える白鵬は、記録的には一代年寄の“有資格者”。ただし、品格面が問題視されることが多く、一代年寄に値しないという意見も協会内に根強くあった」(担当記者)のである。今回の提言書によって、白鵬が引退後に一代年寄を襲名するのは「絶望的になった」(同前)とみられている。
この有識者会議は、2017年に当時の横綱・日馬富士が暴行事件を起こすなどの不祥事が続いたことを受け、2年前に設置されたもの。今回提出された提言書は約50ページだが、その内容は手厳しい。設置された経緯もあってか、日本の生活習慣に馴染めずにいる外国出身力士に不祥事が多いことを指摘し、指導監督の強化が必要と指摘したうえで、唐突に「一代年寄の制度不備」の話が登場し、〈現在の協会の定款などにも根拠となる規定はない〉などと批判を展開する。
「この一代年寄のパート以外にも、提言書には白鵬を想起させる記述が数多くある。外国出身力士の在り方に言及するところでは、『勝ってガッツポーズ』『優勝インタビューで万歳三唱や三本締めを求めた』といったことについて、『少なからずファンが違和感を覚えると同時に失望した』としている。名前を挙げていないが、明らかな白鵬批判です。何度注意されても立ち合いの張り手やカチ上げを改めないなど、好き放題に振る舞う白鵬を快く思わない協会側の意向も反映された内容ではないか」(同前)