世論調査では国民の8割以上が東京五輪の「延期」「中止」やむなしと考えているが、政府も東京都も組織委員会も「開催ありき」だ。国民を感染爆発に晒すリスクから目を背け、その場しのぎの対応策しか繰り出せない様は、かつてこの国を破滅に追い込んだ「あの作戦」とあまりにも似ている――。
菅義偉・首相は4月の日米首脳会談後の共同会見で、「世界の団結の象徴として開催を実現する決意であることを大統領にお伝えし、支持をいただいた」と“五輪強行”を国際公約した。
日本のメディアは世界とは逆に「開幕まであと○○日」とカウントダウンで五輪ムードを煽り、NHKは聖火リレーのインターネット中継で、「五輪反対」と抗議する沿道の声を一部消して配信した。
歴史家の島崎晋氏は、政府とメディアが“ここまで来たらやるしかない”と突き進む現状が、不利な戦況を隠して戦争を続け、国を敗戦へと追い込んだ太平洋戦争と重なって見えるという。
「コロナ禍で五輪開催を強行する政府のやり方は、第2次大戦の最悪の作戦といわれるビルマ(ミャンマー)でのインパール作戦とそっくりです。作戦立案段階から補給が無理だと参謀は反対したのに、司令官の牟田口廉也中将は決行、失敗が明らかになっても保身のために中止せずに日本兵は死屍累々となった」
コロナ対策でも菅政権は過去の教訓に学ぶことなく被害を拡大させている。感染「第4波」にあたって最初は飲食店への時短を要請し、感染拡大が止まらないと、次に「まん延防止等重点措置」、それでもダメで「緊急事態宣言」に追い込まれ、感染者は増えていった。
「ガダルカナル島の戦いの失敗とされる『戦力の逐次投入』と同じです。米軍に占領された飛行場を奪回するため、日本軍は900人の部隊で奪還作戦を行なったが、1万人以上の米軍が待ち構えていて部隊は全滅。次に6200人の部隊を投入したが敗退、3回目の作戦で日本軍はようやく1万5000人の軍を投入したが、米軍もその2倍に増員していて完敗した。正確な情報収集と分析を怠り、戦力を小出しにした結果でした」(同前)
さらに当時の大新聞は「大本営発表」を垂れ流し、ガダルカナルの大敗による撤退を「転進」と言い換え、あたかも作戦が成功しているかのように報じた。全国紙は軒並み「五輪スポンサー企業」に名を連ねており、「五輪中止」を提言していない。開催すれば、再び国民が“一億玉砕”に追い込まれる可能性がある。
※週刊ポスト2021年5月7・14日号