牝馬だから割り引き、そんな空気はないどころか積極的に買い、がセオリーともなりそうなのが昨今である。競馬ライターの東田和美氏が分析した。
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昨年は古馬の牡牝混合の芝GⅠ10戦のうち9戦で牝馬が勝ったが、天皇賞(春)だけはフィエールマンが連覇して牡馬の面目を保った。なにしろこのレースで牝馬が最後に勝ったのは1953年。グレード制が導入されてから23頭が出走して6着が最高だという。究極のスタミナを要求される3200mでは、キレで勝負する牝馬は圧倒的に分が悪いということなのか。
ところで牡牝混合の芝GⅠで牝馬が圧倒的に強かったのは実は昨年だけ。2019年は3勝、2018年はJCのアーモンドアイのみ、2017年はゼロだ。昨年たまたま強い牝馬が全盛期を迎えていたということなのか。
そもそも牝馬は、GⅠに限らず重賞レースで好走するようならば引退後の繁殖入りは確実。牧場に戻っても大事にされ、優秀な牡馬と交配されることがほぼ約束されるし、生まれてきた子も牡牝かかわらず高値が付くし、デビュー時には話題にもなる。ここでジェンダー論を持ち出すつもりはないが、競走人生の先に見えるものが違うのは明らか。牝馬は傷がつかないうちに「いいお嫁さん」になることが幸せだという考え方だ。
平成に入っても1997年にエアグルーヴが天皇賞(秋)を勝つまで、牝馬が勝ったGⅠはすべてマイル以下だった。花嫁道具として強力なのは、男勝りの勝負強さやスタミナではなく、スピードや一瞬のキレだった。
しかし、素質を見せたら引退して嫁入り、それでいいのだろうか、という機運が出てきたのが四半世紀ほど前から。古馬牝馬の競走生活がもう少し長くてもいいのではないか、賞金が世界一と言われて久しい日本競馬、とくに1億に達するGⅠで勝って稼ぎたい。このころから数を増やしてきたクラブ会員が良血馬に出資しようとすると、牝馬にしか手が出ないことも多いので、オープン入り後にさっさと引退されては、まったくうまみがない――1996年、それまで4歳(現3歳)限定だったエリザベス女王杯が古馬にも開放され、10年後の2006年には春のGⅠヴィクトリアマイルが創設された。
これにより、実績を積んできた古牝馬は、春ヴィクトリアマイル、秋エリザベス女王杯という目標ができた。「牝馬路線の充実」を掲げた番組編成にはサークル内からも歓迎の声が上がった。
でも、これって、人間でいえば、既得権益を守りたい男たちが、女同士の闘いの場を設けたっていう印象。エリザベスとヴィクトリアでいいだろう、他は男に任せておけばいいというように感じられたというのは、うがった見方だろうか。
天皇賞(春)に直結する前哨戦としてはまず3000mの阪神大賞典で、平成以降では12勝2着9回3着15回とダントツ。このレースでは牝馬の優勝が1度もないが、出走馬も少なく、ここ10年ではわずかに4頭。そのなかで2015年に5歳牝馬デニムアンドルビーが2着に入っている。
次が大阪杯組で7勝2着4回3着4回。今年は大阪杯からの出走はないが、過去10年で牝馬の出走は12頭。それで3勝もしている。GⅠになったことで、天皇賞の前哨戦という意味合いは薄まり、香港QEⅡ世Cや宝塚記念へ向かうことも多くなった。2015年のラキシスや、昨年の1、2着牝馬も次走は宝塚記念だった。