【著者インタビュー】能登崇氏/『ない本、あります。』/大和書房/1650円
〈【ない本】(名詞・造語)
【1】存在しない本。
【2】投稿された1枚の画像を元に空想を広げ作成された、架空の文庫本のこと。
【3】存在しないため、読みたくても読め「ない本」〉と、そもそもが「?」尽くし。
そこに〈【4】本文が読めるようになった「ない本」も存在し、それが本書である〉と、さらなる逆転を重ねた『ない本、あります。』は、自称「小説家志望の会社員」、能登崇氏(30)の初著書にして、内容的にも驚異の完成度を誇る、〈奇妙で不思議な新時代の超短編集〉である。
無いものが、有るという、この罪作りな状況は3年前、著者がツイッターに開設したアカウント「ない本」から生まれた。まずは写真を一般公募し、これを題材にいかにも文庫本風な装丁を作成。表題も著者も版元も全て架空という徹底ぶりが大いにウケ、フォロワーは現在6万人を突破している。
中でも出色の28冊を選び、書き下ろしショートショートを新たに加えたのが本書だが、その出来栄えはまさに必見。無い本を、読める贅沢さは、私たちの想像を優に超えていた!!
「企画意図はよく訊かれますね。『ない本を作ってます』と言っても、なかなか伝わらないみたいで(苦笑)。
始めたきっかけは幾つかありますが、やはり一番は自分が昔から本が好きで、本を出すことに憧れてきた気持ちが根源にあると思う。ちょうど仕事探しのためにデザインの勉強を始めた頃、練習も兼ねて架空の本作りを始めたのも、自分が本のことをよく知っているからだと思うんです。現に今の会社では広告のチラシやコピーを作る仕事をしていますが、正直そっちは大苦戦で(苦笑)」(能登氏、以下同)
小学生の頃から星新一のショートショートを耽読し、特に地元図書館で東京創元社ミステリ・フロンティアシリーズと出会って以降は「オチのある物語好き」に。大学時代に自分でも執筆と投稿を始め、担当がついたこともあったが、「本を出す人」には結局なれなかった。
「元々僕は日常の謎を描く東京創元社の作品が好きで、同社の鮎川哲也賞などの新人賞に応募していたんですけど、結局、最終選考どまりで。だったら作っちゃえといいますか、本らしさだけなら自分でも作れそうなことに、デザインを学んで気づいたんです。逆に言えば、どんな要件が揃えば本は本たり得るのかというと、定義は意外と曖昧だったりします」
お題は専ら投稿に頼り、双方向性を確信した原点が、冒頭の『傾いた惑星』だ。
元々は海ではしゃぐ母娘越しに水平線を斜めに望む、ごく平凡な行楽写真から、能登氏はこの斜めの水平線をトリミングした上で、〈桜望梅 傾いた惑星〉と著者名&表題を配置。〈膝掛炒飯文庫〉なる出版社名やロゴまで丁寧に作り込み、表4には〈ハードウェアエンジニア・鍬原耕記がある朝目覚めると、部屋が66.6度傾いていた〉と始まる架空の物語のあらすじが。最後は〈人類に必要なのは解決か適応か? 葛藤と決断を描いた日本SFの傑作〉と王道の煽り文句で〆るなど、その遊び心とクオリティは世の本好きを唸らせた。