杉咲花(23才)演じる竹井千代が、困難を乗り越えながら女優の道を駆け上がっていく姿を描いたNHK連続テレビ小説『おちょやん』。長らく視聴率低迷が続いていたが、最終週(5月10日~)を前に絶賛の声が相次いでいる。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんがその背景を解説する。
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昨年11月30日にスタートした朝ドラ『おちょやん』がいよいよ最終週を迎えます。
同作はコロナ禍の影響で「約2か月間スタート時期がズレる」という不運もあり、視聴率は近年の朝ドラよりも低迷。メディアが「低視聴率」と繰り返し報じたほか、毒父と継母から家を追い出され、弟とも仲違いし、戦争に苦しめられ、夫の不倫相手が妊娠して離婚するというシビアな展開に「重い」「暗い」などの声が相次ぐなど、苦しい状況が続いていました。
しかし、残り3週の放送になってからムードが一変。これまでの不幸や苦労を精算し、主人公の竹井千代(杉咲花)が失ったものを取り戻すような物語が続いていることで、それまで肩身の狭い思いをしていた『おちょやん』のファンたちがここぞとばかりに称賛の声を挙げているのです。
もともと朝ドラは半年間にわたって月曜から土曜まで毎日放送される長丁場。ここ5年間の作品を見ても、『とと姉ちゃん』『べっぴんさん』『まんぷく』『スカーレット』『エール』のように主人公の一代記を描くことが多いのですが、仕事での成功を収めるシーンが盛り上がる反面、その後は穏やかな展開が続き、最後も静かに着地するケースが多いだけに、現在の『おちょやん』は異例の脚本・演出とも言えます。
最後になって『おちょやん』が盛り上がっている理由は何なのでしょうか。さらに、どんな最終週が予想され、期待できるのでしょうか。
100話をかけて描いた不幸と苦労
ラスト3週で大きな盛り上がりを生んでいるのは、「視聴者が『終盤にすべての伏線を回収し、昇華させるような物語になっている』ことがわかった」から。また、伏線とは思っていなかったものがそうだと気づいたり、悪人だと思っていた人が善人だったりなどの意外性あふれるストーリーへの感動も多いようです。
たとえば、千代が「捨てられた憎むべき人」と思っていた継母・栗子(宮澤エマ)が「実はずっと花籠を贈って応援し続けてくれていた」という筋書きは、その最たるところでしょう。さらに、夫・一平(成田凌)の不倫と離婚によって、家族、芝居、大切な居場所の道頓堀を失っていた千代が、ラジオドラマという新しい芝居と、家族同然の共演者たちに出会って自分を取り戻しはじめる。しかも、そのきっかけは、新たに家族となった姪の春子(毎田暖乃)で、千代の幼少期を演じた毎田暖乃ちゃんが2役で演じている……という脚本・演出が視聴者を感動させているのです。