それはショーのオープニングで起きたサプライズだった。まばゆい光を浴び、右手人差し指を突き上げた男性のシルエットが浮かび上がる。中央に滑り出してきた彼の姿に、観客は思わず息をのんだ。ビートの効いた曲に合わせてキレキレのステップを踏み始めたのが、大トリとして登場するはずの羽生結弦選手(26才)だったからだ。
4月22〜25日に横浜アリーナ、28〜30日に青森・フラット八戸で開かれた「スターズ・オン・アイス」(以下SOI)に出演した羽生選手。冒頭でのまさかの登場に、感染予防のために歓声を上げられない観客は、力一杯の手拍子で彼の熱意に応えた。
羽生選手がSOIに出演するのは7年ぶり。横浜アリーナは、東日本大震災の後、拠点としていた仙台のリンクを失った羽生選手を呼び寄せ、練習させてくれた場所。フラット八戸は、震災直後のシーズンに競技プログラムの振り付けを練習した場所だ。
「コロナ禍にあって、タイトなスケジュールを押してまで出演を決めたのは、羽生選手にとって“恩返し”の意味が大きい。特に八戸は被災地ということもあり、思い入れがとても強い。彼が2014年に練習で4回転サルコウを初めて成功させた場所でもありますからね」(フィギュアスケート関係者)
横浜、八戸で元気な姿を見せた羽生選手だったが、SOIでの彼は満身創痍。体は悲鳴を上げていた。フリーの演技後にぜんそくの発作に見舞われた世界選手権(ストックホルム・3月22〜28日)の2週間後、大阪で国別対抗戦(4月15〜18日)に出場。4回転アクセルの成功を最大の目標にしている羽生選手は、国別対抗戦の練習で何度もチャレンジ。転倒し、起き上がっては再び挑戦する、を繰り返した。
「4回転アクセルの練習で右膝を負傷してしまい、立ち上がるときは常に右足をかばうようにしていました。見るからに痛そうな大きな青アザができていて、“SOIには出演しない方がいい”という声もあったほどでした」(別のフィギュアスケート関係者)