漫画界の巨匠・永井豪氏は『デビルマン』『ハレンチ学園』『マジンガーZ』『キューティーハニー』など数々の代表作を持つ。その永井氏からの影響を公言している映画監督の園子温氏は、年内公開予定の映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(主演ニコラス・ケイジ)にてハリウッドに根城を移すという。永井氏と園氏が、日米における表現方法の違いや、時代の変遷に伴う表現の自由について語り合った。
園子温:今の僕は自分のやりたい表現をアメリカ人プロデューサーとやり合わなければいけない、59歳のルーキー監督ですよ。
永井豪:あちらの方が表現の自由はありますか。
園:なんとも言えませんね。日本の方がゆるいはずなんですけどね。いまでは名作と呼ばれた『風と共に去りぬ』がダメと言われています。最近、向こうであの時代を描こうとしたら黒人の貴婦人が出てきたりして……。設定が無茶苦茶になっていることもあります。
永井:過去に遡って否定を始めると、歴史の歪曲にもなりますね。
園:映画も漫画も、悪役を描くのが難しい時代になりました。悪玉が悪いことをする場面が描けないとなると、漫画も映画も成立しません。
永井:話が作れなくなっちゃう。露骨な表現があったとしても、それは著者の意見ではない。そこはみなさん、区別してもらわないと。劇中のキャラクターがしゃべっていることまで、作者の意見だと言われたら、もはや何も作れませんね。
園:はい。
永井:しかし、ハリウッドの現場は興味深い。向こうにはいいアクションスターがいますでしょ?
園:こないだ撮り終えた作品では、ソフィア・ブテラがいいアクションをしてくれました。
永井:彼女を撮ったんですか? 知ってますよ、『キングスマン』で義足をつけた殺し屋をやっていた女優でしょ。もともとはダンサーで。
園:お詳しいですね。ええ、キレッキレでした。いい画が撮れました。
永井:彼女がニコラス・ケイジさんと戦うの?
園:女忍者と戦います。ニコラスは股間に時限爆弾をつけていて、エロいことを考えると爆発する設定です。明治維新がなくてそのまま現代になだれ込んでいるという荒唐無稽な時代背景で、侍が生きているのに、バイクが走ってて、花魁はスマホを持っていて、悪玉はセクハラします。