東京への緊急事態宣言や重点措置を6月までに解除し、最低でも「5割」の観客を入れて五輪を開催しようというのがIOC(国際オリンピック委員会)や政府、組織委員会の方針だ。そのツケは東京都民に回される。
組織委は4月26日、日本看護協会と各都道府県の看護協会に競技場や選手村向けの看護師500人のボランティア派遣を要請、スポーツドクター200人のボランティアの募集も開始した。
これに対して日本医療労働組合連合会が「派遣要請は直ちに見直すべき」と談話を発表、「#看護師の五輪派遣は困ります」というツイッターデモが広がっている。
『日本の医療崩壊をくい止める』などの著書があるNPO法人医療制度研究会副理事長の本田宏・医師が語る。
「五輪会場がある東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏は看護師、准看護師の比率が全国でも最低水準です。人口10万人あたりの人数は全国平均が1300人程度なのに対し、4都府県は800人レベル。そういう状況を放置したまま五輪に医師、看護師を動員すれば、地域医療に影響が出ることは言うまでもありません」
それだけではない。
真夏の五輪では観客の熱中症も懸念される。東京都は各競技会場と駅との間に「救護所」を設置する計画で、救護要員として東京都医師会に医療スタッフ1000人の派遣を要請している。そのうえに、組織委員会が看護師や医師の派遣を追加したことで一層の医療スタッフ不足が起きる。
組織委員会顧問を務める東京都医師会の尾崎治夫・会長は、看護師やスポーツドクターの派遣要請について「相談は一切ありません」とテレビの生放送で明らかにした。
組織委員会は都内10か所、都外20か所の医療機関を「五輪指定病院」として確保する方針だ。
専門家からは、「都立病院や大学病院などが対象になると思われるが、すでにコロナの感染者で病床の多くが埋まっているのに、選手のためにベッドを空けろとは言えない」と指摘されている。
五輪は首都圏の医療体制をいよいよ逼迫させる。
写真/時事通信フォト、共同通信社
※週刊ポスト2021年5月21日号