東京五輪を強行開催すれば、日本はさまざまなリスクを背負い込むことになる。政府はその「悪魔の決断」をすべて東京都に押しつけるつもりだ。組織委員会が、選手村向けの看護師500人の派遣を要請した翌日(4月27日)、丸川珠代五輪相は五輪の医療体制の遅れについて、
「東京都が大会の主催者として責任をどのように果たすのか。明確な方向性を示していただきたい」
と小池百合子都知事に責任をなすりつける言い方をした。
小池氏はすかさず、「事務方で詰めている。組織委によーく聞いていただきたい」と言い返した。“あんたが知らないだけでしょ。好き勝手言ってるんじゃないわよ”という不快感モロ出しだった。
「丸川大臣は同じキャスター出身の小池氏に強烈なライバル意識を燃やしているが、組織委員会から情報をもらえないで焦っている。だから看護師派遣要請で自分に批判が向けられそうになると、小池批判にすり替えようとした」(都庁幹部)
丸川氏の口撃は政府の責任回避作戦の手始めだ。
その日、政府は東京(大手町)に大規模接種会場を設営することを打ち出し、自衛隊の医師、看護師を動員して首都圏の高齢者を対象に「1日1万人」のワクチン接種を行なうことを発表した。
一見、「五輪への備え」にみえる。だが、大規模会場での接種期間は3か月間、1日1万人としても最大で90万人だ。ワクチン優先接種の対象となる65歳以上の人口は全国に約3600万人、首都圏の1都3県でも900万人を超える。東京の大規模会場で接種できるのは首都圏の高齢者の1割にすぎない。五輪の感染対策としては焼け石に水で、「政府が五輪のリスク回避に取り組んでいる」というアリバイづくりであることは見え見えだろう。
こんな付け焼き刃の対応が必要になったのは、菅首相が高齢者へのワクチン接種を五輪に間に合わせるために、「7月末までに終わらせる」と指令を出したからだ。計画では「8月中」の予定だったから、現場の混乱に拍車がかかっている。